
長年、店屋を営んできて想うことがある。
それは、稼業を退いた今でも頭の片隅から離れずにある。
まっとうな店屋とは何なのか?
多くは、その問いにずっと悩み苦しみ答えを出せぬまま稼業を終えるのかもしれない。
二〇一七年秋。
同じような想いを抱えたひとりの米国人翻訳家が、この運河の街に流れ着く。
Washington 州生まれ Hawaii 育ちで、京都同志社大学で学んだ Stephen Knight さん。
二〇一八年一二月、運河に架かる山王橋の袂で一軒のちいさな BAR を始める。
“ BRIDGE BAR ”
今回の旅でどうしても訪れてみたかった場所のひとつだった。

入口に据えられた此処が BAR であると示す Neon Sign 。
暗闇に蒼く淡い光が水面を照らす。
なんとも Nostalgic な雰囲気で、儚く美しい。
扉を開けると弁柄色で塗装された吹抜けの細長い通路が奥へと続く。
通路を進み奥左手の扉を開けると。

弁柄色の土間に江戸紫色の階段。
単に日本伝統への Hommage に止まらず無類の Modernism を実現している。
Vintage の家具や照明に対比するように配された Aluminum 材の Table 。
洋の東西や時代を超えた先にある優しさと力強さが共存する空間。
これはもう、巴里 Les Salons du Paris Royal Serge Lutens の世界観に匹敵するかも。
また BRIDGE BAR は、その見た目や雰囲気だけではない。
酒場としての本質に於いても都心の名門 BAR に一歩も引けを取らず抜きんでている。
American Whisky だけでも七〇種類を超える Collection 。
BAR の顔である bartender 藤井宏祈氏の腕は一流で、その接客術はとても柔らかい。

一階の Library Sheet に腰をおろして、Tequila base の Cocktail を注文する。
Neon Sign と同色の original cocktail “ 内川 BLUE ” 。
“ 名門 BAR は排他的であれ ” と云う通人もいてその言葉に自身も腑に落ちていたのだが。
この BAR で杯を傾ければ、それがいかに馬鹿馬鹿しい戯言かを気づかされる。
朝が早い漁師さんのため開店は夕刻四時。
家族連れで飲めないひとのために non-alcoholic cocktail を充実。
腹が減ってるひとには、東京の伊料理屋で磨いた腕を振るう。
課題は尽きない。
まっとうな店屋とは何なのか?
冒頭の問いについて、答えのひとつがこの BAR にはある。
異邦人としてこの地に棲み、ひとに出逢い、つながり、BAR を始めた。
「もし良い店をつくりたければ店に棲みなさい、通いでは駄目ですよ」
Stephen Knight さんは、よくそうおしゃられていたらしい。
これからは、藤井宏祈氏がその意志を継いで BRIDGE BAR をさらに磨いていかれる。
と云うのも、今年の一月三一日急性心筋梗塞で鬼籍に入られたのだそうだ。
ちいさな BAR の偉大な Barkeeper に献杯!


