月別アーカイブ: June 2017

四百八十九話 やっぱり頼みは、稲荷大明神!

嫁に付合って京都山科で午前中の用事を済ませた後だった。 「近くだから、御稲荷さんの顔でも拝んでいく?」 「わたしお参りしたことないんだけど、伏見稲荷って商売の神様じゃないの?」 「商売やめて、伏見稲荷ってどうなの?」 「まぁ、それもそうだけど、参ったことがないっていうのもまずいんじゃないの?」 「無事に商ってこられた御礼がてら行こうよ」 伏見稲荷大社には、関西を始め全国の商人にとっての守護神が祀られている。 この国には、お稲荷さんと呼ばれる神社は三万社を超えて在る。 その全てのお稲荷さんを束ねる総本宮が、此処伏見稲荷大社だ。 一三〇〇年経った今もなお、商売繁盛・五穀豊穣を祈願するひとは後を立たない。 本殿に参って、千本鳥居へ、嫁が妙なことを言い出した。 「この千本鳥居 って、ほんとに千本あんの?」 「そりゃぁ、千本以上はあるんじゃないの、これが稲荷山の山頂までずっと続くんだから」 「ええっ!マジですかぁ!で、稲荷山って何処にあんの?」 「此処だよ!この鳥居を際限なくくぐって山頂へと登っていく訳よ」 「凄いねぇ、じゃぁ、行こうよ」 「う〜ん、ちょっとした登山だから無理じゃないかなぁ」 「って、ひとの言うこと聞けよ!」 説明も忠告もなにも聞かずもう登り始めている。 稲荷山は、伏見稲荷大社の神体山で、二三三メートルほどの標高である。 たいした標高ではないが、それでも山は山だ。 二度ほど連れられて登った記憶だと、九〇分ほど石段を登り続けたような。 意外ときつい。 一〇分おきくらいに茶店が在って、茶店毎に登るのを諦めたひとが引き返していく。 四〇分ほど登りつめると、四ッ辻に着く。 視界が一気に開け、洛中が一望できる中腹地点だ。 たいていの参拝者は、この眺望を土産に引き返すみたいで。 「さ〜て、俺らも戻るかぁ」 「だから、ひとの言うこと聞けって!」 嫁には、この眺望も単なる通過地点に過ぎなかったようで、さらに登っていく。 「あんた、なんか狐かなんかに憑かれてるんじゃないの?」 一 時間を過ぎると、膝というより股間が痛い。 麓でごった返していた参拝者も、今はもう数えるほどしかいない。 しかも、白人四人、中国人一人、どっかの浅黒いのが二人といった具合で。 日本人は、我々だけ。 どうやら外国人は、参拝者ではなくアニメ・オタクみたいだ。 伏見稲荷を舞台にした作品の聖地になっていて、その筋では海外でも広く知られているらしい。 ようやく、一 … 続きを読む

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四百八十八話 まさかの同居人! 其の参

ひつこいようで申し訳ありませんが、四百八十七話からの続きです。 捕獲撃退作戦の要領は、こうだ。 まず、天井にいくつか点検口を設ける。 そして、屋内の子供連を燻煙剤で追い込み捕獲する。 次に、授乳のために通って来る親が屋内に進入できないように全ての床下通気口を塞ぐ。 さらに、念のため点検口に忌避剤を置く。 これら作業を、親の居ない昼間に完了しなければならない。 嫁に大工を加えた五名による人間対正体不明の獣との最後の闘いだ。 午後〇時ちょうど作戦開始! 客用寝室と玄関の天井に点検口設置用の穴を開け始める。 音に怯えてか、寝室の天井裏から鳴き声はするのだが、移動の気配はない。 開けた穴から、懐中電灯で照らし内部の様子を探ってみた。 梁の下の空間から鳴き声は聞こえるが、梁が邪魔して姿は確認できない。 やはり燻煙剤を投入して、追い出すしかなさそうだ。 先に点検口を付けて燻煙剤を仕込み扉を閉じる。 煙が充満し始めたと同時に、ギャーギャーという鳴き声がして、バタバタと動き回る音が響く。 音は、西の玄関方向へ。 よ〜し、作戦通りの行動で、玄関に設けた点検口で待ち受ける。 あれ?来ない?鳴き声もやんだけど?どこ行った? しばらくすると、 途中にある応接間と玄関とを仕切る壁内部から気弱な鳴き声が。 壁の間に落ちやがった! 「どうします?」と訊く棟梁に。 「いいから!壁ぶち抜いて!」 「えっ?マジですか?本気ですか?」 「冗談こいてる場合かよ!捕まえるためにはなんだってやるんだよ!」 「了解!だけど電気ドリルは使わず手作業で抜こう!怪我するといけないから」 「あのなぁ、オメェいったいなんの心配してんだよ?どっちの味方なんだぁ?」 壁に五〇センチ四方の穴を開けた。 全員手に棒を持ち周りを固めて、火箸を手にした棟梁の動きを見守る。 「デカッ!なんだぁ!コイツ?あっ!二匹いるぞ!なんか箱を!早く!」 そうして遂に、火箸に挟まれて穴から出てきた敵の姿を全員が見た。 騒動の主は、イタチでも、ハクビシンでもなく、アライグマだった。 「嘘ぉ〜、どんだけ可愛いねん」 皆棒を捨て、代わりに手にしていたのはスマホ。 で、撮った写真がこれです。 聞くところによれば、アライグマは、一度の出産で三匹から六匹の子を産むらしい。 見つかったのは二匹、他に?どこかに?まだ? 客用寝室の片付けをしていた大工のひとりが、なんか鳴き声がすると言う。 先程の梁下で、垂れ壁の内部だ。 … 続きを読む

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四百八十七話 まさかの同居人! 其の弐

四百八十六話からの続きです。 得体の知れない同居人との闘いは、その後二〇日間に及んだ。 その間ずっと海辺の家に居たわけではないが、離れていても気になってしょうがない。 なので、頻繁に通う。 どうやって追い出すか? そもそもどんな性分の輩なのか? 鳴声だけが頼みなのだが。 それぞれを聞き分けて、何匹いるのかがわかるほどに耳慣れてもいない。 ただ、家にはこどもだけが居て、親は通いで育てているらしい。 こうして正体も何も分からぬままに、捕獲及び撃退作戦開始! まず庭師を呼んで、親が出ていった隙に床下の通気口をステンレス製の網で塞ぐ。 授乳の時間帯は深夜から明方のようなので、作業は夕方に終えて様子を窺う。 草木も眠る丑満時。 ガサゴソ、バタバタと、明らかにこどもの動きとは異なる音が響く。 親だ! どうやって侵入したのか? 翌朝、塞いだ通気口を見にいく。 ステンレス製の網は、見事に引き破られている。 ふ〜ん、なかなかやるもんだ。 今度は、大きな座金に変え壁に網をネジ留めした。 さらに、網の前面にレンガとブロックを積む。 結果は? レンガやブロックを蹴散らし、網も破られ、こどもは腹一杯乳を飲んでご機嫌で騒いでいる。 くそ〜、なめやがって! こうなったら、こっちもガチだ! 二〇キロ近い重さの礎石四枚を、網の前面に敷く。 勝敗は? 完敗!!! さすがに蹴散らされてはいないが、引きずるように礎石はどかされ、網は破られ侵入。 二〇キロ近い礎石を動かせる腕力を備え、床下を這い、内壁を登り、天井裏をゆく。 こいつ、ほんとにイタチなのか? もう、ここまでいいように振舞われると。 ホモ・サピエンスとしての誇りは打ち砕かれ、マジで怖い。 これは、庭師だけでは手に負えない。 大工も投入して、家を潰す覚悟で戦いに臨んでやる! 棟梁を含む大工三名が参戦。 イタチですかぁ、大変でしょ、寝れないですよねぇ、まぁ、追出すしかないですよね。 とか、余裕ぶっこいていた大工に、携帯で撮った侵入路の写真を見せた。 えっ?これ何者?こんなもの動かせるイタチなんかおらんでしょ?怖ぁ〜! おいおい、腰引けてんじゃねぇよ!おたくらが、最後の砦なんだよ。 … 続きを読む

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