月別アーカイブ: October 2020

五百五十四話 色の魔術師が逝く

“ 高田賢三氏、感染症で巴里郊外の病院で逝く” 突然の報せだった。 駆け出しの頃、通い始めた巴里でお世話になったことがある。 Galerie Vivienne に在った “ JUNGLE JAP ” から近くの Place des Victoires に拠を移されていた。 一九八〇年代中頃の巴里服飾業界。 川久保 玲 Comme des Garçons や山本 耀司 Yohji Yamamoto が市場を席巻しようとしていた。 立体裁断を駆使した黒一色の世界は、ちょっとした革命だった。 平面的で絵画的な色の表現を真骨頂とされていた先生の作品とは対極にある。 よく語っておられた。 「時代がどんどん僕から遠ざかっていく」 時代を映す稼業に就く者にとっては、致命的な台詞に聞こえる。 しかし、先生からは、微塵の悲壮感も嫉妬も焦りも伝わってこない。 飄々とされていて、むしろ時代を楽しまれている。 時代と対峙する器の大きさと懐の深さが、半端なく大きく深い方だった。 よくない時には、よくない事が起きるもので。 Victoires 本店の上階で披露された Paris  Collection にうかがった時のこと。 Collection … 続きを読む

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五百五十三話 希凛に行く

友人が海辺の家で一泊するというので、近場での外食に誘った。 せっかくだから、明石の鮨屋に出向いて沖合で獲れる地物を食おうとなる。 夏の終わりで、蛸に、鱧に、穴子にと時期も良い。 明石で鮨屋といえば、老舗 “ 菊水鮨 ” が浮かぶ。 旨いし、誰を伴っても間違のない名店中の名店だ。 それはそうなのだが、ちょっと違った志向で他の店屋を選んでみた。 台を挟んで、亭主と客が向き合って供される鮨には、Entertainment 的な魅力もあると思う。 また、ネタそれぞれに姿を変えて握られる鮨では、その造形自体を楽しむというのもありだろう。 この鮨屋は、そんな望みを意外な趣向で満たしてくれる。 明石 希凛 明石魚棚商店街の中程に暖簾を掲げている。 明石では、比較的新参の鮨屋だが、瞬く間に隣に二号店、淡路島に新店と勢いがとまらない。 どの店も、予約は必須で、その日の気分でという訳にはいかない人気を誇っている。 入口側のカウンター席に腰掛けていたこの日も、五分おきに訪ねる客を次々と断る始末だ。 亭主に。 「感染予防のこの時節に凄げぇなぁ」 「ほんと、みなさん何しに来られるんですかねぇ?」 「そりゃ、鮨食いにやろ、他になにがあるっていうんや」 腕と才覚に運が味方すると、感染症ごときでは揺らぐことはない。 「自粛中は、なにしてたん?」 「店の改装してました」 女性の設計士が手掛けたという店内は、白を基調に今様で明るく仕上げられていた。 そんな “ 希凛 ” の鮨は、おまかせで供される。 「明石鯛を塩で」から始まって、大間本鮪の大トロ、湯引鱧に玉葱、鯵に練り辛子、明石蛸に柚子。 そして、穴子は蒸しで甘辛く、平目に漬けた玉葱。 さらに、平目を終えるの見計って、亭主から手渡されのが。 「なに?これ?」 「帆立です」 酢飯に炙った帆立をのせ焼海苔で巻いて手渡す。 見た目は、 切り餅に甘めのさとう醤油をたっぷり絡めて海苔を巻いた磯部焼そっくり。 旨いかと訊かれると旨いが、磯部焼かと訊かれると味も磯部焼。 … 続きを読む

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