月別アーカイブ: July 2017

四百九十二話 どっちの BABEL が好き?

これが、Boijmans Van Beuningen 美術館収蔵のPieter Bruegel 作「BABELの塔 」 今、国立国際美術館にいる。 さらに。 これも、Pieter Bruegel 作「BABELの塔 」 多分、Wien 美術史美術館にいる。 もうひとつ、Pieter Bruegel 作「BABELの塔 」はあったらしいが。 今、どこにいるのか誰も知らない。 ふたつの「BABELの塔 」 で、どっちの BABEL が好き? まぁ、一般人にとっては、どっちでも良いはなしなんだけれど。 中世西洋美術愛好家の間では、意外と真面目に交わされる論議のひとつでもある。 なにが違うか? まずは寸法が違っていて、面積比で Wien 美術史美術館収蔵の方が五倍ほど大きい。 そこで、「大BABEL」と「小BABEL」と呼んで二作品を区別している。 そして、「大BABEL」を観てから二〇年以上経った先日「小BABEL」を初めて観た。 僕は、ある期待をPieter Bruegel 作品に抱いて観る。 くだらない下衆な私見だが。 西洋美術史上でも指折りの謎とされる奇妙な美術が、一五世紀の和蘭陀に出現する。 全くもって Surrealism だとしか言いようのない存在なのだが。 … 続きを読む

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四百九十一話 梅雨に履く靴 

よほどの雨でも降らない限り傘はささない。 梅雨時。 いくらなんでも、今日は傘を持っていけと言われて持って出て。 無事に持ち帰ることは、自慢じゃないが稀だ。 どこかに忘れるか、似ても似つかない別の傘を手にして帰るか。 どうして、いつもそうなのか?馬鹿なの?と訊かれても。 習性だとしか答えられない。 そうやって、長年この歳になるまで傘と縁のない生活を続けている。 じゃぁ、西欧人みたく濡れても気にならないのか?というと、それはそこそこ気になる。 だから、この時期 Gore Tex Parka は必須アイテムとして欠かせない。 雨が降れば、どんな場所にでも着ていく。 先日も、北新地のママさんに。 「ちょっとぉ!何してんの!あんた!裏にまわって!」 黒色の Parka をフードまですっぽり頭から被った姿で扉を開けた途端、そう叫ばれた。 どうやら、配達業者だと思ったらしい。 ちぇっ!この Parka 一着で、 てめぇんとこの客が羽織ってる背広三着は買えるんだけど。 せっかく気を使って、数ある Parka から選んで着てきてやったのに、この仕打ちかよ! でも、まぁ、ママさんの言分の方が正しい。 洗面所で鏡の前に立つと、配達業者でも上等なくらいで、もう盗人の域だ。 お絞りを手に、おろおろしてるママさんが。 「このジャケット格好良いやん、わたしもこんなん欲しいわぁ」 「嘘つけ!遅せぇわ!」 「それより、なんか運ぶもんあったら言いつけてよ、俺、業者だから!」 しかし、どんなに世間受けが悪くとも、この雨装束を改めるつもりは毛頭ない。 さらに進化させていこうと思う。 喩えば、この靴。 Authentic Shoe & … 続きを読む

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四百九十話 鯖寿司は、好きですか?

京都生まれ京都育ちで、京都で物書きをしている知合のおとこが言うには。 脂がのっていない鯖を押した鯖寿司ほど不味いものはないらしい。 異を唱えるのも面倒なので、そうだねと返したが。 実は、肉厚で脂がのり過ぎる鯖を押した鯖寿司ほど苦手だ。 加えて、表面を覆っている白板昆布もどうしたもんだろう? 昆布の旨味を付加するためだとか、青魚の臭みを和らげるためだとか、劣化を遅らせるためだとか。 いろいろと説はあるらしいが、どうもあのヌメッとした感じが食うに辛い。 鯖のべっとりとした脂と昆布のヌメヌメ感の重なりは、何故に?と思わざるをえない。 だが、始末の悪いことに味はことの外美味い。 ほんとうに残念な喰いものだと思う。 鯖にもっとも脂がのる季節は秋から冬にかけて。 そんなに脂がのった鯖が好きなのだったら、鯖寿司も冬に食えば良い。 そう思うのだが、京都人にとっての鯖寿司の旬は初夏から夏にかけてだとされている。 なるほど、お中元に鯖寿司をいただいても、お歳暮にいただいたことはない。 京都人には、祭りの日に鯖寿司を食する習わしが生きている。 初夏の葵祭り、盛夏の祇園祭り、晩夏を過ぎて間もない一〇月の時代祭。 どの祭りの日にも鯖寿司が、晴れの卓へと供される。 先日も、梅雨に入ろうかという京都を歩いていると。 「鯖寿司あります」と書かれたのぼり旗が、嫌でも目につく。 古い商店が建ち並ぶ通りだと、五分毎にはためいていて。 もう鯖寿司以外に食うものはないというほどの脅迫めいた風情が、街中を覆っている。 ここまでされると、そんなに好きでもない鯖寿司を口にしようかという気にさせられてきた。 数件の店屋の屋号が浮かぶ。 祇園「いづう」、八坂下「いづ重」、下鴨「花折」いずれも鯖寿司の名店として知られている。 そこで、考えてみた。 鯖の脂量と鯖寿司の値は比例しているのではないか? 肥えて脂がのった鯖ほど値が張るのだから、原価に応じて鯖寿司の値も張る。 白板昆布にしたってそうかもしれない。 肉厚の昆布ほど滑っていて、やはり値も張る。 脂と滑りを抑えたければ、買値を抑えれば良いのではないか? ちょっと安値の鯖寿司であれば、具合良く食えるのではないか? 潜った暖簾は、東福寺山門前「いづ松」 誤解のないように言っておくけど、この「いづ松」も老舗であり名店だ。 祇園「いづう」から暖簾を分けられた先代は、現代の名工と称された寿司職人だった。 ただ、お茶屋通いの常連が集う親店とは違って、此処は庶民相手に営まれる駅前の寿司屋である。 看板の品は、鯖寿司。 竹皮に包まれた鯖寿司は、ずっしりと重い。 何切れからでもとご亭主から告げられたけれど、姿で一本の方が見栄えが良いのでそうした。 想定通りそんなに肉厚ではなかったが、用済みの白板昆布は早速にめくって外す。 滑りもさほどには気にならず、酢加減、塩加減、なにより鯖の脂加減もちょうど良い。 … 続きを読む

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