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月別アーカイブ: May 2012
百七話 短パン買ってぇ〜。
ブログでこんな事お願いするのもなんなんだけど。 短パンが売れない。 どうやっても売れない。 全然売れない。 巷では、⎡この夏の稼ぎは短パンで⎦とか言ってる奴もいるのに。 写真の短パンが悪いんじゃなくて、全般的に短パンが売れない。 なぜか売れない。 顧客の方がご来店される。 ⎡いらっしゃいませ、短パンですか?⎦ ⎡いきなりどうしたの?今日はなんか良いシャツないかと思って⎦ ⎡なぁんだ、そこら辺にあるんじゃないですか⎦ ⎡こら、なぁんだはないだろう、そこら辺とか言ってないでちゃんと応対しろよ⎦ ⎡短パン買ってぇ〜⎦ ⎡うるさい、人の話聴けよ⎦ ⎡わかりました、じゃぁ、シャツ買って短パンも買ってぇ〜⎦ ⎡嫌だ⎦ ちぇっ、それだけかよ人が頭下げて頼んでんのに。 こりゃぁ、正面から攻めても駄目だなぁ。 戦法変えなきゃ。 違う顧客の方に試してみる。 ⎡今年の夏は暑いらしいですよ⎦ ⎡ほんまに?⎦ ⎡原発も稼動しなきゃキツいですよねぇ⎦ ⎡なんかそんなこと言うてるなぁ⎦ ⎡俺、暑いの苦手やから何とかしてもらわんと⎦ ⎡関西電力さんはどうか知りませんけど、僕なら何とか出来ますよ⎦ ⎡マジで?⎦ ⎡これです、これさえあれば大丈夫です⎦ ⎡この短パン涼しいですから、この夏はこれで乗切りましょう⎦ ⎡だから、短パン買ってぇ〜⎦ ⎡阿呆かぁ?⎦ 阿呆はないだろう阿呆は、人が知恵絞って説いてんのに。 こうなったら、まずは何故売れないのかを訊いてみよう。 対策はそれからだ。 また違う顧客の方に尋ねてみる。 ⎡なんで短パン売れないんですかねぇ?⎦ ⎡あんた毎年毎年なんべん同じこと訊いたら覚えるの?⎦ ⎡去年の今頃も売れないって騒いでたやろ⎦ ⎡そうだったかなぁ、そんな事よりなんで売れないんですかねぇ?⎦ ⎡この店と短パンっていうアイテムが相性悪いのとちゃうの⎦ … 続きを読む
Category : 衣
百六話 横丁に残る“ 横丁 ”
所用で神戸にいたので元町に足を向ける。 この辺りの商店街には、学生時代の先輩や同級生や後輩達の店が多くある。 皆、名の通った老舗の二代目や三代目だ。 それでもこういうご時世だからと思いながら見知った看板に目をやりながら歩く。 どの店屋も堂々と暖簾を守って商っている。 渋々代を継いだ奴もいるが、継いだら継いだで中々にしぶとい。 校風だろうか。 元町商店街には、およそ思いつくであろう商売のほとんどが軒を連ねている。 仕立屋、鞄屋、生地屋、ネクタイ屋、靴屋、子供服、食材店、菓子屋、喫茶店、刃物屋…………など。 港街ならではの海図屋なんていう商売もある。 それぞれに老舗で、ものに精通した玄人が顧客相手に商う。 また、ちょっとした歴史を看板に刻んでいる店屋も多い。 日本最初の紳士服店であり、明治天皇、伊藤博文公の服を仕立たという柴田音吉洋服店も健在だ。 とかくガキの身には敷居の高い商店街だった。 大学生の頃、どうしてもほしいパンツが友達の店のショー・ウィンドウにあった。 店主でもある父親の目を盗んで原価でわけてやると言うので身分違いの店に出向いた。 二階の瀟洒なサロンで友達に裾を合わせてもらう。 階下で勘定をとなった時にいないはずの店主が出て来られた。 銀髪で痩身に沿った 高級スーツを上品に着こなしておられる。 ⎡こいつ、俺の友達⎦ ⎡あっ、どうもです⎦ 財布には用意していた原価ギリの札しか入っていない。 ⎡え〜と、どうしようかな⎦ どうしようかもないもんである。 すでに裾は切られているんだから。 ⎡御客様の出世払いにして差上げて、卒業されたら頑張ってくださいよ⎦ ⎡あっ、はい、どうもです⎦ ⎡ありがとうございました、今後ともよろしくお願いします⎦ 満足な持合わせもない息子の友達だからといってぞんざいに扱うということはない。 ⎡今後ともと言われても当分無理だろうなぁ⎦ 思っても口にはせず頭を下げる。 ⎡あっ、すいません、ありがとうございました⎦ ⎡ガキが訪れる場所じゃない⎦ と思い知る。 服屋で緊張したのは、後にも先にもこの時限りである。 この時のパンツ、仏から輸入された Dior Monsieur 今で言う … 続きを読む
Category : 食
百五話 素直じゃない靴
foot the coacher の二〇一二年春夏コレクション最後のアイテムが届いた。 Layered Wing Combi Shoes これってブラック・バージョンもあったんだけど。 そっちは、とっくの昔に納品されて有難い事に完売した。 ⎡ブラウンも見てから決めたい⎦とおっしゃっていた顧客様もおられたのだが。 待ちきれずブラックをお求めになられた。 でも幸いな事に怒られる事はない。 昔はもっと酷かったから。 ⎡秋冬の靴が年を越えて春に ⎦なんて頃から比べると上出来だ。 顧客の方々も鍛えられている。 自慢できた話じゃないけどね。 ところで、この靴どうなんでしょうなぁ。 最初に見た時 は、⎡賛否両論だろうな⎦と思っていた。 まぁ、製作者の言分は別にあるのかも知れないが。 要するにグッドイヤー製法でスニーカーの履き心地を実現したというところじゃないかなぁ。 着想としては、トヨタのプリウスにみられるハイブリッド的な。 まずは、そこんとこを良しとするかどうかだろう。 僕自身は、この考えを消極的にではあるが評価している。 時代にも市場にも明快な標がない状況下では、賢明な選択肢のひとつだと思う。 加えて、ハイブリットがもたらす凡庸さに必死に抵抗している感がある。 このあがきにも似た反抗が無ければ、もう竹ヶ原敏之介の靴ではない。 近未来的な概念に反して古典的なウィングチップをデザインの下地に据える。 次にレイヤードの手法で古典的意匠を打崩す。 伊産のショルダー・レザーと山羊革という全く性格の異なる原料を用いている。 色と表情の違いで Crazy Pattern を創りレイヤード感を補強する。 革新を古典で否定し、その古典をさらに異なる革新で否定する。 そして、その道程を一足の靴に透かして魅せる。 およそ、こんな経緯だったんじゃないかなぁ。 屈折してるよねぇ、発想が。 … 続きを読む
Category : 衣
百四話 ANSNAMの夏
ちょっと前の話になるが。 連休なかほどのある日、ひとりの男がやってきた。 にわかに大阪の空が翳り、強風が吹荒れ、雨が降りだす。 ⎡どうもで~す⎦ ANSNAMの中野靖君だ。 秋冬色をしたボルドーの夏物T-シャツにネイビーのボトムを合わせて。 背中には黒の大容量リュックを背負っている。 ⎡なに?その死体袋みたいなの⎦ ⎡失礼な、何言ってんですか⎦ ⎡御客さんのとこへ行ったら、僕の服より皆興味しめして何処のですかって訊かれるんですから⎦ ⎡何と比べて何の自慢してんだよ⎦ ⎡死体袋はどうでもいいんだけど、中野君の服評判良いよ⎦ ⎡なんでだろうね、よく解んないけど⎦ ⎡いい加減にそういう疑問をもつの止めて貰えますぅ⎦ ⎡自信を持って販売してくださいよ⎦ ⎡無理だね⎦ 中野君と前後してANSNAMの夏に向けた最終アイテムが到着する。 Musée du Dragon のために別製作された Marine Parka なんだけど。 ANSNAM の最終というより、予定していた全ブランドの中での最終アイテムといっていい。 繊細そうに見えて、僕との仕事をいつも後回しにするという図太い神経を持ち合わせている。 しかし経緯はどうあれ、この Marine Parka なかなか憎い仕上がりになっている。 まず素材が偏質的にこだわっている。 本人が言うには、⎡ 塩縮 Broken Seersucker Gingham Check ⎦だという。 全く想像がつかない訳ではないが、経験を積んだ人間でも完全に理解するのは至難だろう。 … 続きを読む
Category : 衣
百三話 Local Hero
意外と知らないんだよねぇ、大阪。 もうミナミとなるとチンプンカンプン。 ⎡地元だろう?⎦って言われても、仕事場だから周辺をうろつかない。 たまに、飯喰いに行っても馴染みの店だけだから他はわからない。 学生時代の遊び場はずっと神戸だったので筋金入りの⎡大阪音痴⎦である。 後藤恵一郎さんから電話がかかってきた。 ⎡今、ミナミなんですけどちょっといらっしゃいませんか?⎦ ⎡ミナミの何処ですか?⎦ ⎡帝国ホテルの前なんですけど⎦ ⎡どっちの帝国ホテルですか?⎦ これは、欠かしてはならない確認事項なのである。 大阪の俗語で⎡パチモン⎦という言葉がある。 偽物という意味なのだが。 一八九〇年創業の帝国ホテル、日本を代表する名門ホテルである。 十五年ほど前、大阪の地にその帝国ホテルが東京よりやってきた。 これが⎡パチモン⎦の正体である。 なぜなら、大阪にはすでに帝国ホテルは存在していたから。 こちらの帝国ホテルの沿革は知らないが、たしかに在るには在った。 しかも、名門を凌駕する一泊四二八〇円からの料金設定。 これが⎡ホンモン⎦の正体である。 大阪人はみんなそう思っている。 此処⎡大阪国⎦では、独自の法解釈と倫理観に基づいた社会生活が営まれている。 世界の常識や日本の常識は一切とは言わないがほとんど通用しない。 かような事情から、⎡大阪の人ってちょっとねぇ⎦とか言う人もおられる。 大阪人を代表してやりあうつもりはないけれど。 僕は、この地が品性を欠いているとは思わない。 かつて日限萬里子さんという実業家がおられた。 ⎡ LOOP⎦はアメリカ村を産み、⎡ PALMS ⎦はディスコブームの火付け役となる。 その後も⎡ LIFE ⎦⎡QOO ⎦⎡ MUSÉE OSAKA ⎦と次々に仕掛けられる。 いずれの店も、街場の再生を予感させ実際にサブ・カルチャーの発信源となった。 以前、雑誌の取材でお目にかかったことがある。 … 続きを読む
Category : 他
百二話 野田の藤
今年も庭に藤が咲く。 梅から桜へ、桜から藤へと季節に歩を合わせて花もうつろう。 これから初夏にかけて、この古館は緑にすっぽりと包まれていく。 庭も年を通じて一番賑やかな時期を迎える。 さて、藤の噺だが。 この国には二種類の藤がある。 ひとつは⎡山藤⎦ 山野に在って大木に這い登り遠目にも見応えのある大輪を咲かせる。 いまひとつは⎡野田藤⎦ 在所の庭に咲き一輪でというよりは棚に仕立て群れの連なりを眺める。 古来より、 ⎡吉野の桜、野田の藤、高雄の紅葉⎦と称される。 足利将軍も太閤秀吉もこよなく愛でたという⎡野田の藤⎦ ⎡野田⎦の名は、Musée du Dragon のほど近く福島区玉川辺りを指す。 日本固有種⎡野田藤⎦発祥の地である。 ⎡へぇ~、一目見てみるかなぁ⎦と思われる方もおられるかもしれない。 ただ、藤の艶やかで壮観な眺めを期待されるとお応え出来ない。 ⎡野田の藤⎦は悲運の花とも言われる。 信長の本願寺攻めで、春日神社付近に咲く藤は境内もろとも焼き払われた。 その後、町衆の尽力で生き存えるのだが。 明治期の市街地開発により数が減り、昭和期に入っても難儀は続く。 大阪空襲では壊滅寸前までに追込まれた。 奇跡的に残った古木二本もジェーン台風による高潮に見舞われ遂に最後の一本となる。 その最後の⎡野田の藤⎦も戦後の高度成長に沸く大阪に在って顧みられる事はなかった。 公害により古木の勢いはますます衰えていく。 昭和も四十五年になりようやく大阪市が保護にのりだす。 そして現在、祠のような小さな春日神社の境内にこれまた小さな藤棚がある。 今では手厚く構われ、それに答えるように花をつけているらしい。 これが、庭に咲いている老いた藤の故郷にまつわる話である。 ⎡野田⎦にある実家の⎡藤⎦連中に比べれば気楽なもんだ。 海辺とはいえ潮風はここまでは届かない。 高台にあって遮るものもなく燦々と日の光を浴びて育ってきた。 喉が乾いたと言えば水を貰い、腹が減ったと言えば肥を貰う。 年に何度か散髪をして貰いもする。 庭中に花びらや落葉を撒き散らしても文句も言われず掃除をして貰える。 仕事といえば、母の寝室へ直に光が入らないよう加減するくらいのもんだろう。 そうやって気楽に生きてきた。 … 続きを読む
Category : 庭
百一話 SHERLOCK HOLMES
“ Time Machine ” 餓鬼臭い問いかけですが、もし時空を越えて旅するとしたら何処へ行きますか? 僕の向かう先は端から決まっている。 深い霧にガス灯と登場まもない電灯の灯が交錯しながら滲む。 汚物と埃まみれの石畳を馬車と無頭立ての自動車が行交う。 流行の衣装で飾った富裕の民とボロを纏った貧民が混ざり合って街に溢れる。 植民地政策による移民流入のせいで、魔都は人種のるつぼと化した。 産業革命直後の倫敦。 新と旧、貧と富、光と闇、絶望と希望、優越と劣等、成熟と退廃。 矛盾が支配し秩序が定まらない。 人類史上最初の大量殺戮を予感させる不穏な気配が欧州全土を覆いはじめる。 一方海峡を渡った向いの国では、誰もがBelle Époque (良き時代 )と回想する至福の時を迎えていた。 首都巴里は、不道徳な絢爛に興じている。 滅茶苦茶で混沌とした世界。 そんな十九世紀末ヴィクトリア朝時代。 海峡で隔てられたふたつの国で僕のヒーローが産声をあげる。 Sherlock Holmes と Arsène Lupin 探偵は、Sir Arthur Conan Doyle が、怪盗は、Maurice Leblanc が産みの親である。 倫敦の 221B Baker Street、大西洋岸の村 Étretat など所縁の地にも出向いてきた。 … 続きを読む
Category : 他
百話 Dragon Wallet
遂に、この糞の役にも立たない馬鹿ブログも百話となりました。 ご愛読いただきまして、まことに恐縮です。 もうちょっとましな話でもと思うのですが、なんせ脳の具合がよろしくないもんで。 ご容赦願います。 さて、せっかく百なんだから見栄張った話でもさせて戴こうかな。 二ヵ月ほど前、鰐革のコイン・ケースを製作した。 お求め戴いた顧客様がやって来られる。 ⎡この小銭入れ良いねぇ⎦ ⎡まるいからポケットの中で干渉しないし、使ってると艶々してくんだよね⎦ ⎡あんたも、たまには良いもん考えるよねぇ⎦ ⎡たまにはじゃなくって、いつもだろう?⎦と思うけど言えない。 ⎡でさぁ、僕も考えたんだけど⎦ ⎡小銭入れが鰐革で、札入れが牛革っておかしくない?⎦ ⎡別におかしくないし、あなたは考えなくてもいいんだけど⎦と思うけど言えない。 ⎡だからね、小銭入れの残りの革で札入れ創れば良いんじゃないの?⎦ ⎡もう堅気の発想じゃないね、話が逆だろう⎦と思うけど言えない。 ⎡出来ないの?⎦ ⎡どうでしょうねぇ、鰐革の大きさとかあるんじゃないですか⎦ ⎡なんで? お腹割いて開けばなんとかなりそうだけどなぁ⎦ ⎡いやいや、鰻の蒲焼きじゃないんだから⎦ ⎡そうかなぁ、種類的には一緒でしょう?⎦ ⎡明らかに違うでしょう、鰻と鰐は⎦と思うけど言えない。 ⎡また考えときますから、今日のところはお気をつけてお帰り下さい⎦ 鰐は、恐竜と同じ主竜類に属する。 同族の恐竜よりも僅かに古い時代から地球上をうろついている。 白亜紀に恐竜が絶滅してもなお生延び、今もなおうろついたり財布になったりしている。 何故、鰐だけが生残ったのかは生物学的にはわからないらしい。 要するにしぶとい奴らなんだろう。 だが、鰐が竜の末裔だとすると、ちょっと考えてみてもいいかもしれない。 “ Musée du Dragon ”って看板掲げてるんだから。 それに、今年は Dragon Year だしね。 また後藤惠一郎さんに相談する事にする。 … 続きを読む
Category : 他