月別アーカイブ: September 2014

三百十四話 平成月餅合戦

一三〇〇年ほど時を遡った中国の唐代での噺。 中秋節の頃、 家族や日頃から仲の良い連中が集って、月を眺めながら菓子を喰うという習俗が生まれた。 菓子は、供物でもあり“ 月餅 ” と命名されたという。 ほんとかどうか知らないけど、大きな顔して、でかい声で喋る漢族の連中はそう言っている。 由来はさておき、この “ 月餅 ” は昔から僕の好物のひとつで、此処のは美味しいと訊けば必ず買う。 僕は喰うだけだが、嫁は意外にもこの中華菓子に詳しい。 さすがに家で作ろうとはならないが、数ある月餅のあれやこれやをよく知っている。 嫁は、とてもエライのだ。 その月餅研究家が、妙な事を言出した。 中秋節にしか喰えない月餅を二軒の名店で買求め、どちらが旨いか食べ比べしようというのだ。 両手に月餅を抱えた嫁に訊く。 「それ、これからふたりで喰うつもり?」 「そうだよ」 「下世話な話だけど、それで幾らくらいすんの?」 「意外と安いよ、五千円くらいかなぁ」 「月餅って一個千円近くもするもんなんだぁ、それで安い方なの?」 「まぁね、っていうか素人は黙っててもらえる?」 一軒は “ 華正楼 ” で、もう一軒は “ 翠香園 ” で、どちらも横浜を代表する中華菓子屋らしい。 まずは、華正楼 “ 仲秋伍仁月餅 ” 対 翠香園 “ 伍仁鹹肉 ” … 続きを読む

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三百十三話 ただの革籠なんだけど

これから先、Musée du Dragon の名を掲げる製品には、一切の妥協もしないし打算もない。 売行きもどうだって良い。 ただ創りたいものを創る。 良くも悪くも、これが Musée du Dragon という店屋の視点であり、積上げてきた力量である。 ただ、お付合い戴く方々には、迷惑千万このうえないと承知しております。 知合ったのが我身の不運と諦めていただく他ない。 さて、この鞄は、後藤惠一郎さんが、先行して創られた鞄を基にして考えられた。 さらにその鞄は、伊 Vicenza に工房を構えるメゾンが創った鞄を手本としている。 では、何故に今この鞄なのか? 商売柄、欧州老舗メゾンの存在は、常に頭の片隅の何処かにある。 品質、意匠、価格、訴求力など、全ての要素で一流の上に超がつく。 正直、その実力には、敬意を表するし憧れもする。 だが、好きか嫌いかと問われれば、はっきり言って嫌いです。 あの欧州独特の階級志向がモノに透けて見えて、拭い切れない嫌悪感を抱いてしまう。 私どもの商品を手にしたければ、頑張って此処まで登っておいでみたいな。 で、やっとの想いで登ってきて、手にした相手に向かってこんな風に言ったりする。 「昨日今日の人には、やっぱり似合わないね」 じゃぁ、どうしろって言うんだぁ! この稼業に就いて、欧州で仕事をした日本人の多くが、こんな想いをしたと思う。 先の問いに答させてもらう。 日本の場末に在る服屋でも、その程度の仕事だったら、あんたら以上にこなしてやるよ! 一度でいいから、そう言ってみたかった。 偉そうな事言って、創ったのは後藤さんなんだけど。 鞣し・圧着・裁断・手編み・縫いなど、全工程を日本の職人がその手でこなす。 中には、これを最後に職人としてのキャリアを終えられる方もおられる。 Musée du Dragon でも、何度もお世話になった方だ。 此処に、日本の Leather … 続きを読む

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三百十二話 ブルーライト・ヨコハマ

街の灯りがとてもきれいね ヨコハマ ブルーライト・ヨコハマ あなたとふたり幸せよ 一九六八 年、稀代の美人歌手いしだあゆみさんが唄われた。 橋本淳先生が作詞され、昭和歌謡史に名を残す大ヒットとなった。 僕が、三〇歳になるかならないかの頃。 巴里からの帰国便がアンカレッジで故障し、空港内のラウンジに長時間閉込められたことがある。 ソビエト連邦崩壊以前の欧州航路は、アンカレッジで給油し北極圏を跨いで行き来していた。 アフリカ・ロケで体調を崩されたあゆみさんも、その故障機におひとりで搭乗しておられた。 たまたまラウンジで隣合せになり、整備を終えるまでの時間をご一緒させてもらう。 長時間のフライトでも、ピシッと背筋を伸ばされ、いささかもその美貌に翳りはない。 当時の欧州便に日本人はそんなに多くなかったが、空港内に居合せた誰もが振返っていた。 図抜けた美人というのは、洋の東西を越えるのだと思う。 育った場所が隣町同士だったこともあって、ローカルな話題で盛上がった。 大女優でもある人気歌手と駆出しのガキ、誰の目にも不釣合いに映っただろうが。 この歳になっても、ちょっとした自慢ネタにしている。 いしだあゆみと言えばブルーライト・ヨコハマ、ブルーライト・ヨコハマと言えばいしだあゆみ。 そんな名曲の舞台となったヨコハマにいる。 結婚式に夫婦で招かれてのことだったが、嫁は大阪から、僕は出張先の東京から、ホテルで落合う。 顔を合わせたのは、夜の一〇時前で、遅い晩飯を喰いに出掛ける。 ところが、意外にヨコハマの夜は早い。 近くの中華街も、店仕舞いの支度を始めていて、今からの注文に付合ってくれそうにもない。 「嘘ぉ〜、ヨコハマって、こんなに早仕舞いなの?」 「みたいだよなぁ、しょうがないから BAR 飯にでもするかぁ」 「 全然 OK だけど、何処か当てでもあるの?」 久しぶりのヨコハマで新規の店屋は知らないけど、地元で愛され続ける老舗なら数軒憶えがある。 戦前から建つ Hotel New Grand の裏通りにヨコハマを代表する一軒の BAR が在るはずだ。 石川町の … 続きを読む

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三百十一話 IN THE MOONLIGHT

九月八日は、中秋の名月で、月が一年で最も美しいとされる夜。 地球に月が最も近づいた時に満月を迎えることを、Super-moon と呼ぶ。 さらに、今年は、二〇年に一度訪れる Extreme Super-moon の年となっているらしい。 天の道理には疎くて、なにが Super で、どう Extreme なのか、いまいちよく解っていないのだが。 とにかく、でかくて、明るいのだそうである。 九月八日の月曜日が中秋の名月で、翌日の九日が 今年三度訪れる Extreme Super-moon 最後の日。 御天道様の段取りは、そのようである。 そんな月を、義母はよく見上げていた。 月が満ちた夜などは、特に嬉しそうにしていた姿を想いだす。 訊かずじまいだったけれど、きっと月を眺めるのが好きだったんだろう。 嫁から持ちかけられる。 「ねぇ、月曜日休みだし、お月見の真似事でもやってみない?」 「いいんじゃねぇの、彼岸の入りにはちょっと早いけど良い供養になるかもな」 「仏間の広縁からも眺められるしね」 ってことで、設えることにした。 庭で、都合良く穂を揺らしていたススキを生けて。 これまた都合良く倉庫で眠っていた硝子酒器を掘出してきて。 鱧の湯引きを酒の肴に。 仏前には、義母が贔屓にしていた和菓子屋の月見団子を供えて。 月を待つ。 そして、噂どおりの、でかくて、まる くて、明るい月を観た。

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三百十話 No way !!!! OVER THE STRIPES !!!!

No way !!!! まさか、嘘でしょ? 毛皮を細い帯状に裁断して、手編みして、セーターに仕立てる。 とまぁ、ここまでだったら高級メゾンが考えそうな手法としてありえると思う。 が、よりによって Lettered Sweater とは。 しかも、灰色に黄色の配色ですって。 毛皮が素材として持つセレブ感を無視した暴挙だろう。 真っ当な服屋としては、完全に地雷アイテムの類だ。 手を出してはいけない。 しかし、自慢じゃないが、僕は、違う。 こういう服を前にすると、俄然根拠のないモチベーションが沸き上ってくる。 Over The Stripes デザイナー 大嶺保さんに。 「この服、Musée du Dragon で引受けるよ」 そして、発注数量を伝える。 「マジですかぁ?一店舗の数量としては危なくないですか?」 「危ねぇに決まってんじゃん」 「でも、何処にでもあるようなくだんねぇモノ見せたって、誰も喜ばないよ」 とは言ったものの怖いのは怖いので、 顧客様に予約をお願いしたり一応の販売努力を試みたところ。 一週間後。 「大嶺さん、悪いけど、この前の数量じゃ全然足りねぇわ」 「冗談でしょ? 凄ぇなぁ」 「だけど、こういうのって、なんかちょっと嬉しいよねぇ」 「ほんと、たしかに」 こうして、オッサンふたり、ささやかな皮算用で盛上がっていたのだが。 なにも僕が凄い訳でも、Musée du … 続きを読む

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三百九話 それでも特撮と言えるのか?

先週は ” るろうに剣心 ” を、 今週は ” GODZILLA ” を観に、都合二週連続劇場へと足を運ぶ。 すでにご覧になられた方も多く、旬の話題とは言いがたいので恐縮なのだが。 せっかく観たので、軽〜く触れておく。 正直な感想を言えば、両作品共理屈抜きで楽しめた。 特に “ GODZILLA ” は、前作の悪夢もあって大した期待もしていなかっただけに、 儲けたような気分になる。 米国人に、ゴジラを創られてたまるか! そういった世迷言を口にしたような気がしますが。 スイマセン、言直します。 今んとこ、こんなゴジラを創れるのは、米国人だけだ! Thank you Yankee ! Bravo Hollywood ! “ GODZILLA ”と“ ゴジラ ” は、“ Computer Graphics ” と“ … 続きを読む

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