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六百四十六話 湾岸の下町に本気の boulangerie を

海辺の家から車で一〇分ほど東に “ 和田岬 ” という湾岸の街がある。 すぐそこなんだけど、便が悪い辺鄙な場所。 噂では、こんな場所に超絶に旨いパン屋があるらしい。 とりあえず、嫁とあるという笠松商店街を目指して行ってみた。 商店街って、いつの噺? ほとんどのシャッターが下りていて、ただの下町の路地にしか見えない。 車を停めて歩いていると、横を若い夫婦が駆けて通り過ぎていく。 その先に、人集りが。 「あそこじゃないの?」 「嘘だろ?なんでこんなとこでパン屋始めたんだろう?」 小さな看板が立ててある。 “ boulangerie maison murata ” たしかに此処みたいだ。 嫁に。 「この店屋、多分そうとうに 旨いよ、俺鼻が利くから」 店先まで、なんともいえない 甘く香ばしい匂いが漂う。 店内の棚には、およそ考えつく限りのいろんな種類のパンが所狭しと積まれている。 本格的な PAIN DE CAMPAGNE から餡パン、果ては メロンパンまでが並ぶ。 「凄ぇなぁ!どれも滅茶苦茶旨そうだわ」 地元の子供が喜びそうなモノまであって、気取り無い品揃えの構えが良い。 添加物を使わず、天然酵母から生まれる夥しい数のパン。 居並ぶ客も多いが、こなす職人の数もちいさな店にしては一五人ほどいる。 その一五人が、ほぼ無言で無駄なく素早く交差していく。 たいした店屋だと想う。 店主は、村田圭吾さん。 お若いが、その職歴は華やかだ。 … 続きを読む

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