月別アーカイブ: September 2011

四十一話 蕎麦会席

山科の毘沙門堂を右手に、清流を下に眺めながら脇を抜けると竹薮にでる。 薮に隠れるように、欅で造られた茅葺き屋根の庵がある。 庵には、春秋山荘 “ 蕎麦 高月 ”と書かれた暖簾が掛けられている。 親店は、高台寺の名料亭 “ 馳走 高月 ”である。 それにしても、こんな隠れ里みたいな場所に誰が来るんだろう。 暖簾をくぐって店内に。 ⎡本日満席になっておりまして、囲炉裏端のお席でもよろしおすか?⎦と花番の女性。 ⎡よろしおすけど、この人達どっから湧いてきたの?⎦と訊きたかったが我慢した。 平日の昼過ぎに、途中人影すらない薮の中に、人が集まる。 どうなっているんだろう。 其れはさておき、僕は蕎麦好きである。 途中カレーを、挟んで戴ければ一年間は文句を言わない。 しかし、会席はダメだ。 早食いで人に遅れをとった事がないし、カレー等は喉越しを味わう飲み物と思っている。 なので、テンポが合わない。 蕎麦会席とは? 一番の好物を、一番苦手なスタイルで喰うという事になる。 それって、どうよ。 まずは、枝豆豆腐のお通し。 枝豆は擦り流しを葛で固め、中に豆をそのままに仕込む。 向付は、よこわとしま鯵の刺身を梅酢で戴く。 刺身を梅酢でというのは初めてだったが、サッパリとしていて良く合う。 そして、いよいよ蕎麦。 五・三直打ちとあるが、白く、細く、上品な喉越しで締め方も程良い。 何よりも驚いたのは、蕎麦出汁に大きな魚の切り身が入っている。 鮎だ。 この鮎出汁は、本当に素晴らしい。 こんなに柔らかなあたりの蕎麦出汁は記憶に無い。 しかし、この切り身を喰うべきか、除けるべきか? 隣で大人しく喰ってる嫁を見た。 ⎡えっ、何? 魚? 喰ったよ。マジ旨いよ。⎦ … 続きを読む

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四十一話 MANY THANKS

ちょっと、インパクトの強いグラフィックをお見せしましょうか。 これ、Musée du Dragon の十五周年にとお願いしたアイテムのために描かれました。 お願いした先は、mastermind JAPAN の本間正章氏と OVER THE STRIPES の大嶺保氏。 PUNK で良いでしょ。 嬉しくなって、お礼の電話をした。 ⎡気に入って貰えて良かったです。⎦ ⎡出来良いんで、当初シャツにという話でしたけど、T-シャツもやりませんか?⎦ と、本間君が言ってくれた。 ⎡やる。やる。やります。何が何でもやりましょう。⎦ と言うものの、僕はこの件では、な~にもしていない。 最初、どのアイテムで、どういった手法でやるかという話に加わっただけだ。 その話の最中も、OTS のムートン・ベストをいじくり回して遊んでいたから、 何を言ったか、あんまり憶えていない。 なのに、こんなに親身に向き合ってくれるとは。 本当に有り難い。 やっぱり、頼み事は、相手を見てしないとねっ。 SHIRT と T-SHIRT 最終的に決まれば、またお知らせいたします。 出来と値段、全てにおいて喜んで戴けるようにしてもらえると思いますよ。 本間さんと大嶺さんの手で。 僕は、な~にも出来ないけど。

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三十九話 毘沙門堂

日本人は、元来おおらかな宗教観を持つ。 宗教に端を発した争いが全く無かった訳ではないが、 数と規模において、他国より圧倒的に少なく小さい。 かなり古い例えで申し訳ないが、多くの日本人が口にした言葉がある。 ⎡神様、仏様、稲尾様 ⎦ 日本シリーズ、対巨人戦で西鉄を奇跡の逆転勝利に導いたのが、稲尾投手。 にしてもである。 神と仏と野球選手が同列に扱われる事に違和感はないのか? お答えいたします。 ありません。 多くの日本人の信心とは、困った時にのみ芽生える身勝手な感情と言える。 僕もそうだ。 先日も、神様、仏様に担当して戴く事態が発生した。 どこに行こうかと考える。 京都の山科にいたので、近くで、昼飯が喰えて、経験豊富な先が良い。 この思考そのものが、罰当たりなのだが。 あった。 毘沙門堂。 山科の駅から車で一〇分少々。 山門の傍に、京都の老舗料亭が営んでいる蕎麦会席の店屋があるらしい。 寺伝によれば七〇三年に行基によって開かれたとあるので、千三百年以上の経験を誇る。 疎水に架かる橋を渡って、山道を進むと大きな山門に出会う。 侘びた山寺の風情で、なかなか良い。 本殿に向かってお参りしようと見上げると提灯と注連縄がある。 ⎡あの~、こちらに居られるのは、神様ですか? それとも仏様ですか?⎦ どちらかによって、お参りの作法が異なる。 その程度の事情は、一応心得ている。 しかし、お寺側の正式解答は、⎡柏手を打っても良い。⎦⎡また、打たなくとも良い。⎦ さらに、お寺であって、お寺でない。 じゃぁ、一体何なんだ? ⎡まあまあ、入って、入って。⎦とご住職。 いや、飲み屋じゃないんだから。 ここ毘沙門堂は、代々続く門跡寺院である。 ということは、この住職もよんどころない血筋の方ということに? まぁ、いずれにしても、拝む方も、迎える方も、かくの如きおおらかさである。 毘沙門天は、日本固有の解釈として七福神の一尊に数えられる。 他の六尊様にも、御願いの件、くれぐれも宜しくお伝え下さい。 勝手を申し上げますが、ここはひとつ皆様で御願いいたします。 合掌。

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三十八話 人とモノの個性

ここに、二着の Stadium Jumper がある。 写真では、よく分からないと思うが、この二着は性格が異なる。 上のは、OVER THE STRIPS の大嶺保氏が作った。 とにかく、手触りが優しい。 身生地には、カシミヤ100%のスーツ生地が使われている。 袖革には、極限まで薄く鞣されたカーフ。 ポケットは、MA-1のフラップ仕様。 薄く軽い素材で、シンサレートを包むように設計している。 一方下のは、ROARの濱中三郎氏が作った。 こちらは、無骨な造りに見える。 身生地には、アンゴラ混の肉厚ウール・メルトン。 袖革には、通常の牛革に代わって、しっかりとした羊皮。 ポケットは、革の両玉縁でファスナー仕様。 外観は男臭いが、実際は軽く設計されている。 フカフカとガッチリ、二種類の Stadium Jumper 。 軽量化と細身のシルェット、狙いは双方とも同じである。 それでも、仕上がってみれば、ここまで違う。 これらを作った御両人、見た目の印象も違う。 ひとりは、ユルキャラ、もうひとりは、チョイワル。 どっちが、どっちとは面倒臭いので言わないが、あくまでも見た目である。 面白い事に、その違いが、服作りにも現れる。 まぁ、腕と経験が、自身の表現を確かなものにしている証しなんだろう。 ところで、二人で面白いんだから、十人だともっと面白いかも。 ひとつのアイテムを、十人のデザイナーがそれぞれの嗜好で作る。 良いんじゃないの。 来年でもやってみようかな。 服飾学校の課題みたいだと怒られるかも知れないけど。 これには、ちょっとした銭が絡みますからねぇ。 それに、頼む相手が、業界を牽引している曲者揃いですから。 遊びは遊びでも、ガチですよ。 商品のDATAは、HOME … 続きを読む

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三十七話 “ 花の醍醐 ” に潜む危険。

ちょっとした事情から、京都の山科に通う事になる。 少なくとも、毎月一度は来なければならない。 今まで馴染みの薄かった土地だが、なかなか良い所だと知る。 世界文化遺産に登録された寺院もある。 大伽藍を擁する真言宗醍醐派の総本山 “ 醍醐寺 ” である。 少し時間が空いたので、行ってみる事にした。 静謐な真言密教の空気に包まれる。 太閤が愛でた醍醐の桜。 憲深林苑の藤。 三宝院の紅葉。 残雪に咲く紅梅。 ⎡花の醍醐⎦と呼ばれ、四季を通じて花が参拝に訪れる者を迎えてくれる。 しかし、盛夏の醍醐寺は、なぁ~んの花も無い。 そして、花に誘われてやって来る厄介な人達も、だぁ~れも居ない。 オバチャン達だ。 この種の圧力団体は、 一人二人は、何の問題も無い。 十人二十人も、まだ我慢出来る。 それを上回る百人二百人となると、少し怖い。 さらに千人二千人に至ると、呼吸が困難になる。 空気が吸い取られるからかも知れない。 数年前、恐ろしい目に遭った。 宇治に紫陽花で知られる “ 三室戸寺 ” という山寺がある。 僕は、始めて知った。 オバチャンの背丈と紫陽花の草丈が同じだという事を。 オバチャンの顔の大きさと紫陽花の花の大きさが同じだという事を。 で、何を見たかというと。 山寺の斜面を埋め尽くすように数千個の花を付ける紫陽花。 その花と花の間に、胴体が紫陽花の葉で隠されたオバチャンの顔だけが覗く。 まるで紫陽花が、花とオバチャンを同時に咲かせたような。 紫陽花、紫陽花、オバチャン、オバチャン、紫陽花、オバチャンみたいな。 怖ぇ~。 … 続きを読む

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三十六話 相場

駄目だ。 値段が、高過ぎる。 理由は、バックルの材質にある。 銀の無垢材を使用しているのだが、高騰が止まらない。 この二年間で、四倍の値段になった。 投資家の対象になっているらしい。 投資家? 職に貴賎は無いと教えられたが、どうもそうじゃないらしい。 金から金を産もうとする連中。 イスラム世界なら重罪でしょう。 本当に迷惑な話だ。 博打なら、賭場でやってくれ。 それにしも、このダブル・リングのベルト、銀相場を理由に諦める訳にはいかない。 写真のように、オーダー用のスケールまで作って戴いた。 実際の商品は、このスケールより、はるかに凝っている。 製作者は、後藤恵一郎氏。 使う道具は、革包丁一本のみ。 使う材料は、革一枚のみ。 縫い糸さえ使わない。 後は、バックル。 さて、どうしましょうか? 後藤さん。

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三十五話 奔放な食生活。

ちょうど一週間前になる。 二〇一一年 九月二日 午後九時三十分。 天候、大型台風 “ TALAS ”により大荒れ。 只今をもって、⎡HOME ALONE SHIFT ⎦解除。 そして、嫁、復活。 ⎡ちゃんと食べてたぁ?⎦と訊かれる。 ⎡うん、まぁね。⎦ あらゆる証拠は隠滅してある。 ゴミの類は、毎朝、駅のゴミ箱に捨てた。 ここで、この間の晩飯を振り返ってみる。 一日目、カレー味の鏡餅。( 内容は、三十二話で。) 二日目、鰻。 三日目、天麩羅。 四日目、寿司。 五日目、改良版カレー。 みたいな。 やっぱり、初日の躓きが痛かったなぁ。 それにしても、完全にオヤジ丸出しの芸の無い献立である。 浅草辺りに行くと、洋食屋、鰻屋、天麩羅屋、寿司屋が、順繰りに軒を連ねている。 通うのは、正真正銘、昭和産の天然ヴィンテージ・オヤジだ。 思考範囲が狭く、硬直化した脳味噌が思いつく食物は限られている。 ⎡何か好きな食べ物を。⎦と問われるとここらに行き着く。 後は、蕎麦か饂飩ぐらいだろう。 まぁ、良い。 この奔放な食生活も今日で終わりだから。 そこで、復活した嫁が言う。 ⎡今日、カレーで良いよねぇ。好きなんでしょ。⎦ ⎡えっ、マジですか?⎦ 終わりじゃなかった。

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三十四話 SNEAKERを発売しました。

おかげさまで好調です。 十五年間手を出さなかったアイテムを発売しました。 スニーカーです。 ISSEY MIYAKEで、メンズ部門のデザイナーだった小此木達也氏が製作した。 ブランド名を、“ White Flag’s ”と云う。 これが、初回のコレクションとなる。 なかなか良い出来だと思う。 何が良いかと言うと、デザインもさることながら、この手作り感が良い。 スニーカーは、量産型の工業品に違いない。 この工業品特有の均一性が、Musée du Dragonには似合わないと思っていた。 今ままで扱わなかった理由でもある。 しかし、ブランドが、無名の間はどうしても少量生産となる。 そして、工程上、人の手に頼る箇所も増えてしまう。 自然と、ハンド・メイドな風情を持った商品に仕上がる。 いつまでも、この感じのままで少量生産出来ないのかなぁ? でも、それは、売れないという事になるのか。 難しいところではある。 まぁ、良いんじゃないの。 そんなに売れなくても。 とりあえず、僕は今のこの感じが良い。 と言うか、この感じで無けりゃ嫌だ。 じゃぁ、これからも頑張ってね。 HOME PAGE の brand に他のモデルも掲載しておりますので、ご興味のある方は御覧下さい。 全国の皆様、“ White Flag’s ” を何卒、宜しく御願いいたします。 なんて事を、ここで言ってもしょうがないか。

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三十三話 JUNK FOOD

Junkとは、酷い言われようである。 訳せば、“屑”でしょう? Hamburgerも、こういった食物のひとつだと言う人もいる。 でも、僕は思う。 Hamburgerが、Junkという訳ではない。 売ってる店屋が、Junkなのだ。 それを証明してくれるのが、此処んちである。 目黒区の大橋にある“Golden BROWN”。 ここのオーナーって、どんな人なんだろう? 好きなんだと想う。 Hamburgerが、Americaが、そして1960年代が。 外装、内装含めて、造りが徹底している。 シャッターの開閉装置まで、米国製の年代物とは恐れ入る。 そういや、NYの “Tribeca” 辺りにこんな店あったよな。 そして、肝心のHamburgerだが、本当に旨い。 添えもののフライド・ポテトに至るまで丁寧に調理されている。 ちゃんとした料理である。 たかがHamburgerと言ってしまえば、それまでだが。 僕達だってそうだ。 たかが服屋で、適当にやってもそれなりに通用する。 しかし、やっぱりどっかで好きなんだと思う。 だから、こだわる。 ここのオーナーに会ったら、言いたい。 ⎡本当に儲かんないね。⎦ 東京都目黒区大橋 屋号:Golden BROWN

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