月別アーカイブ: August 2012

百三十一話 おおかみこどもの雨と雪

⎡おおかみこどもの雨と雪⎦ 観ましたよ。 やっぱり細田守っていう方は凄いねぇ。 ⎡Summer Wars⎦につづく次の一手はこうなりますか? 久しぶりに大袈裟なテーマに頼らない淡々とした情緒を味わえた。 自然保護だとか人と人の絆だとか戦う勇気だとか。 最近特に、 映画でも音楽でも絵画でも何かを訴えないと芸術じゃないみたいな作品が多いような気がする。 僕が鈍いだけかもしれないが、⎡おおかみこどもの雨と雪 ⎦には明快な訴えは無かったように思う。 何も考えずに楽しもうと思えば楽しめる。 逆に何かと向き合おうとすればそれはそれでかなり深いところに迫るものもある。 そして世代・性別・職業・生活環境・子供の有無によって様々に感想が異なるんじゃないかなぁ。 ここまで観る者の自由裁量に任せた懐の深い作品は稀なような気がする。 ⎡圧倒的な作画力で料金分は満足させますので、後はお好きにどうぞ⎦ これが細田守監督の真意かもしれない。 ⎡Summer Wars⎦でも⎡おおかみこどもの雨と雪⎦でも細田監督は日本の夏を描いた。 低いアングルで、人物には影が無く、見事に美しく力強い。 現実に存在する汚れたものや不純なものを全て除き画面を清潔に終始保っている。 それは夫であるおおかみおとこの亡骸が都会の川に浮かんでいるシーンでも徹底されている。 細田守の作画美学。 日本映画界の巨匠、小津安次郎監督が撮られた画を観ているような気分になる。 意外なところで日本映画が誇った伝統的映像様式美は受継がれている。 勝手な思い込みだろうけど。 僕にとってはそれだけでもこの作品はたいへんに価値ある一作です。 ところで最近人から聞いた話なんだけど。 細田守って、スタジオ・ジブリから⎡ハウルの動く城⎦の監督として招聘されたことがあったんだって。 事情は解らないが、制作途中で取り止めになり監督降板となったらしい。 桁外れの人員と資金を要するアニメ制作において中止は監督業をつづける上で死刑宣告に等しい。 業界内での信用も失うだろうし。 この人もそうとうな修羅場をくぐってここまで来られたんだろうと思う。 そんなジブリとの経緯も含んでの話なのかもしれないがポスト宮崎駿とも噂されているらしい。 でもちょっと違うような気もする。 宮崎作品は観る人を本編の中に取込もうとする。 対して細田作品は客席を少し離れたところに置いて本編を眺めさせようと企てる。 どちらも素晴らしい巨匠には違いないが、宮崎駿は宮崎駿で、細田守は細田守なんじゃないかなぁ。 ポスト何とかっていう印象はない。 僕が細田守の名を知ったのは九年前だった。 … 続きを読む

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百三十話 Anti Monochrome

別に黒基調のスタイルを全否定するつもりはないけど。 上から下までまっくろけっていうのはどうなんだろう。 もうそろそろいいんじゃないの。 どっかの雑誌に書いてあった。 ⎡男の不良スタイルは黒で統一⎦とか何んとか。 俺、いいとこの息子だから不良じゃねぇし。 この歳になって不良を売りもんにしたくもねぇし。 どっちかっていうと。 ⎡歳の割に可愛いとこあるじゃん⎦とか言われるとすっかり良い気分になる。 筋者じゃないんだから怖がられても一文の得にもならない。 前々から言ってるように。 ⎡おんなは度胸、おとこは愛嬌⎦ですよ。 という昨今の事情に一石を投ずる意味でも、ちょっとご提案させていただきます。 これでも服屋の端くれなんでね。 この組合わせで肝になるのは一番外側のマウンテン・パーカです。 肝の割には写真でディテールも色もはっきりしなくて申訳けありませんが。 このパーカーの色は黒じゃなくってパープルに染められている。 深〜い 紫色なんです。 背部に革製 Pistol Wappen を背負った roar の新作です。 機能的にもいろいろと優れもんなんだけど今回は色の話なんでやめておく。 さて次は中衣のスェット・パーカーに移ります。 このファミコンみたいな色具合がなんとも良い。 身生地はピンクでフード裏からブルーが覗きアジャスター・コードがサックス・ブルー。 そしてパープル・ストライプのオックスフォード・シャツ。 丈が少し長めでよく見ると両脇にポケットが配されている。 胸にはクロス・ステッチ作家 大図まこと氏の手による刺繍が施されている。 モチーフは目玉焼き。 色といい柄といいもう完全にお馬鹿です。 キャリアを積んだデザイナーだけがなしえる意味不明の抜けた感覚がある。 僕はかなり好きですよ。 フード・パーカーとシャツ両アイテムとも Numero Uno … 続きを読む

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百二十八話 タニマチ

ありがとうございます。 いやぁ〜、うれしいなぁ。 こんな道楽仕事を評価していただいた上に注文まで。 職人の辻一巧君も様子をうかがいにやって来た。 ⎡あ〜良かった⎦ ⎡こんなに手間懸けたけど一本くらいしか注文貰えなかったらどうしようかと思ってました⎦ ⎡おまえねぇ、Musée du Dragon を舐めんじゃないよと言いたいとこだけど⎦ ⎡俺も四本か五本くらいの注文だろうなと思ってたよ⎦ ⎡こりゃぁ、銀材ちょっと仕込まなきゃなんないなぁ⎦ ⎡それはそうとこの銀材ちょっと白っぽくない?⎦ ⎡ Four Nines だったらこんな感じですよ⎦ ⎡えっ、これって 99.99 なのぉ?⎦ ⎡そうですよ、一齣一齣手で創るとなると極限まで柔らかい純銀でないと無理ですよ⎦ ⎡知らなかったんですか?⎦ ⎡うん、 俺馬鹿だから難しいこと解んないんだよね⎦ ⎡じゃぁ、解んないのにこんな厄介なもの創れって言ったんですか?⎦ ⎡まぁな、でも評価して貰えたんだから良かったじゃん⎦ 世の中にはこういう仕事を理解して銭を出してやろうという方々がおられる。 そのお陰で職人は飯が喰える。 僕も喰える。 創って良かったと思うし、また新しく何かを創ろうかという気持ちにもなる。 浪速には、いや日本には “タニマチ” という言葉がある。 大阪市内の谷町という地名に由来するのだが。 相撲界の隠語で、力士または部屋を私的に支える贔屓客を意味する。 伝え聞いた話では。 明治初期、谷町七丁目で開業していた萩谷義則という医師がいた。 たいそうな相撲好きで力士が診療に訪れると無償で治療し高価な薬を処方していたと言う。 その噂が角界に広まり特別な好角家を “タニマチ”と呼ぶようになった。 … 続きを読む

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百二十七話 mastermind JAPAN 八月十八日午前十一時より発売。

mastermind JAPAN 2012-2013 fall & winter collection こうやって発売日を迎えるのもあと二回だね。 秋冬のコレクションを発売するのはこれで最後になる。 Musée du Dragon で始めたのが十三年くらい前じゃなかったかなぁ。 長かったような短かったような不思議な感覚になる。 と言って別に感傷的にもなんないけど。 別にデザイナーの本間正章君がいなくなる訳じゃないし。 逆に終わってからの方が気楽に付合えるかもしれない。 僕は一緒に仕事をしているデザイナーとは基本的に個人的付合いは極力避ける。 デザイナーは優秀であればあるほど一筋縄ではいかない。 デザイナーとの間に良好な距離感を保つ事はこの稼業において大切だと思っている。 お互い熱くなり過ぎるとロクな事にならない。 本間君や藤田君そして本橋君とも気分良くいい間合いでこれまでやってこれたと思う。 感謝です。 なんかこれで終りみたいな話になってきたけど。 コレクションは後二回ありますから。 なんか今回はインターネットへの掲載も駄目、通販も駄目なんだってぇ? 本間君も最後の最後までやるよなぁ。 まぁ、意図するとこは違うのかも知んないけど俺は賛成だね。 服には現物を前にしないと伝えきれない要素が多くある。 色や型や細部の仕様さらには微妙な風合いまで 色々とね。 それを雑誌の写真やインターネットの画面で把握して買って下さいって乱暴過ぎるだろう。 だいいちそんな事で売手と買手が納得し合えるんなら店屋なんていらねぇじゃん。 安いもん売ってんじゃないんだから。 ⎡横着な事やってんじゃねぇよ⎦ と言いたいんだけど。 また時代遅れだって言われるし他人にも嫌われるから止めとこ。 それにしても十三年前の無名の頃からずっと支えて戴いた顧客様がおられる。 あたりまえの事だが、この方々にだけは頭が上がらない。 ⎡大丈夫、きっと売れるようになるよ⎦そう言って戴いたのもこの方々だ。 … 続きを読む

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百二十六話 Samurai & Knight

いやぁ~、やっと仕上がった。 中世に野鍛冶が騎士の腕輪を創ったらどうなるか? 馬鹿な妄想をした。 Cast (型)は一切使わない。 一齣一齣、無垢材を削り曲げ蝋付けしていく。 駒の数だけ違った表情があり二度と同じモノは創れない。 宝飾デザイナーやアクセサリー・デザイナーの仕事ではない。 なぜかというとデザイン画や図面の類を描いては駄目だ。 デザインそのものを排したい。 銀の塊から感覚を頼りに作品を産む。 観た目に美しいとか洒落てるとか華やかだとかそんな評価は一切いらない。 洋の東西を問わず昔から銀装飾品は護符の意味合いを持つ。 悪魔を祓う武器である。 中世において欧州は貧しく暗黒の時代だった。 戦場に赴く騎士の手首には銀製の鎖が巻かれていた。 チャラい流行もんの装飾品じゃなくて。 一齣一齣丁重に職人が本来の意味を込めて繫いだ鎖が欲しい。 問題は途方も無い手間をかけて地味な鎖を一体誰が創るかだが。 とりあえず僕は嫌だ。 なんたって人生の後半は口先だけで生きて行こうと決めているから。 そこで頭に浮かんだのが辻一巧君。 彼は彫金師ではあるが工業製作的色合いの強い職人でもある。 この話を持込んだ時もカスタム製作の自転車フレームに取組んでいた。 それに何と言っても互いの相性が良い。 一巧君がガキだった頃からの付合いだが、組んで何かやってしくじった事は一度もない。 頑固だがここ一番という時には頼れる職人である。 純銀の鎖をつなぎめ無く見事一本の輪に細工してくれた。 そしてこの腕輪にはもうひとりの職人が係わっている。 山崎金型彫刻の山崎清氏。 大阪の地で僕が産まれる前から刻印製作を生業としておられる。 街場に残る昭和の名工である。 このブレスをよ〜く見てみてください。 表面にちいさな刻印がいくつも刻まれているのがわかると思います。 三ミリ巾の銀材に鮮明な紋を描ける刻印を製作してください。 しかも深く刻める刻印をと注文する。 納めてこられた刻印を見てその精緻な仕事ぶりに驚かされた。 紋様はひとつが桜、もうひとつは薔薇。 桜は日本の武士道を、薔薇は西洋の騎士道をそれぞれに象徴している。 この薔薇の紋章は … 続きを読む

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百二十五話 秋一番

これ、roar だぜぇ〜。 二丁拳銃はどこいったんだぁ。 ただのフード・パーカーじゃん。 なぁ〜んてご批判もあるだろうが、Musée du Dragon としてはとても気に入っている。 もちろん、僕も気に入っている。 どんなブランドでもいっぱしのブランドなら他を寄付けない得意アイテムがある。 Cross Gun が付いてようと付いてなかろうと roar のフード・パーカーは絶妙だといつも思う。 ただ自身では昔からあまり黒い服を身につけないことにしているから滅多に買わないけど。 今回は幸いな事に、また嬉しい事に、大好物のオレンジ色で染められている。 濱中君は色音痴なのかと思っていたけど。 すいません誤解でした。 やっぱ一流のデザイナーはバランスがとれてるよねぇ。 良い色感ですよ。 和蘭陸軍の軍用アンダー・ウェアーみたいな色にそそられる。 それに素材が裏毛じゃないのがまた有難い。 使用されているのは Waffle Double Face 。 がっつりとした量感で、表情もあって、中衣料というよりアウター・ウェアーとして充分通用する。 秋一番のプライベート・ショッピングとして謹んで買わせて戴きます。 ちょっと値が張るけどそれだけの事はある。 もうひとアイテム、同素材で同色のT−シャツも同時展開している。 こちらの方はネイビー・カラーも加えて二色でご覧戴けます。 お値段もフード・パーカーと比べるとお求めやすくなっているので併せて宜しくです。 今年の秋冬は、いろんな色の roar を他のアイテムでもお楽しみ戴ける予定にしている。 だから、やっぱり黒でないととか言わないで視野と気持ちを広く持ってご覧下さい。 とは言ってみたもののあんまり黒やってないけど大丈夫かなぁ。

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百二十四話 俺の扁桃腺

ここ一ヵ月ほど最悪の体調に悩まされている。 先月の始めには突然四十度近い高熱が出た。 日曜日だったので休日診療所に駆込み薬を処方してもらって翌日から東京出張。 出張中もたいして良くもならずふらふらで大阪に帰って来て。 診て貰わないよりもましと思い、店の近くで開業している藪医者の元へ行く。 ⎡気管支炎ですなぁ⎦とか言って抗生剤を含む山ほどの薬を渡しやがった。 その糞薬をおとなしく二週間ほど服用していた。 そして薬が切れて三日ほど経った昨日。 夜中に寒気がして体温計で計るとまたもや高熱。 ⎡どないなっとんねん⎦ これはもう面倒だとか言ってられらない。 真っ当な医者に診て貰う他ない。 大阪大学耳鼻咽喉科の腕利き医者に診て貰うことにする。 歳は僕より少し下だが、おとうさんも京都大学の名医だった。 ⎡どうしたのぉ?⎦ ⎡昨日から三十九度くらい熱があって喉も痛くて、先月の七日にも同じようなことがあって……………。⎦ ⎡はい、あ〜んして⎦ ⎡聞けよ、俺の話⎦ ⎡聞いてるよ、ほら⎦ PCの画面をこちらに向けると、そこに “ 昨日高熱・喉痛 ”と書いてある。 ⎡そんだけ?いろいろ訴えたのに⎦ ⎡ほら、早くあ〜んして⎦ ⎡あ〜ん⎦ ⎡扁桃炎だね⎦ ⎡いや、気管支炎だと思うんだけど⎦ ⎡なんで?⎦ ⎡別の医者がそう言ったんだけど⎦ ⎡ふ〜ん、間違えたんじゃない?⎦ ⎡スコープ鼻から入れるからね⎦ 長細い管みたいなのを鼻から差し込まれた。 ⎡あ〜、こりゃ駄目だな⎦ ⎡フゴッフゴッフゴッ?⎦ ⎡えっ、何だって?⎦ スルッスルッと管を抜く。 ⎡先生、俺もう駄目なのぉ?⎦ ⎡ 何がぁ?駄目なのはあんたじゃなくて扁桃腺だよ⎦ … 続きを読む

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