月別アーカイブ: January 2017

四百七十七話 日本の名機?

思い出したくもないけど。 昨年の暮。 島根で川にはまり、その時、手にしていたのが長年愛用のカメラ。 愛機 Leica は、そうして人里離れた山奥の川に散った。 その後、年が明けてひと月経ってもカメラがないという残念な状況を解消すべく店屋に向う。 愛機の亡骸をぶら下げて、カメラ屋の爺いに。 「これ、治せる?」 「お客さん、治せないの知ってて訊いてるよね?」 「じゃぁ、これ買取ってよ、新しいの買うから」 「治せないカメラ買取って、うちはどうすんの?」 「知らない」 「あんたさぁ、何が言いたいわけ?」 「こんな可哀想な目にあってんだから、買取ったつもりで安く新しいカメラ売ってぇ」 「で、何が欲しいの?」 「FUJIFILM X-Pro2」 「はぁ? Pro1じゃなくて Pro2を安くしろってぇ?発売したばかりの最新機種だよ」 「哀れなおとこが、こうやってうなだれて頼んでんだから」 「人助けだと思って、ここはひとつお願い」 弾いた電卓を向けながら。 「ったく、買取ったつもりでって言われてもなぁ、これでどう?」 「ありがたいとは思うけど、そこをもうちょっと」 「無理!」 連れない爺いだ、こんなにも傷ついた客から儲けようなんて。 こんな始末で、ようやく新しいカメラを手にした。 FUJIFILM X-Pro2 XーPro1の評判は、カメラマンのお客さんから散々聞かされていたので承知している。 まぁ、写真の腕は悪くはないから道具にはこだわらない方だけど。 デジタルでの撮影となると、カメラの光学性能はどうしても無視できない。 そこで、色々と迷い悩む。 フィルム撮影に馴染んだ世代には、その世代なりの屈折した訴えや求めがあって。 被写体を自分の眼で直接捉えたいという根源的な欲求とか。 フィルム時代の色や階調再現を取戻したいという郷愁的な欲求とか。 それらの欲求にどれだけ寄り添ってくれているかが、僕らにとっての名機の条件だろう。 富士フィルムは、長年のフィルム開発によって技術を培ってきた。 … 続きを読む

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四百七十六話 Money ?

米国に糞な大統領が誕生するというので、米国だけでなく世界中の経済環境が不透明らしい。 これを機に、今までの運用内容を見直すべきだ。 そんなはなしもあって。 海辺の家に、株屋のおねぇちゃんがやって来た。 美人で、頭の切れも良く、淀みなく端的に物事を伝える。 やっぱり金融屋はこうでなくてはいけない。 騙し騙されの銭の世界に、おっさんは無用だというのが僕の信条で。 そもそも損を喰らった時の印象が違う。 あぁ、あのおねぇちゃんにはやられたなぁ。 というある種の爽快感と、結果とは別の達成感が、おっさんからは得られない。 なので、この日は気分良くはなしが聞けた。 聞けたけれど、それでなにかが見通せたのかというと結局なにも解らないままに終わる。 そもそもに於いて、世界の誰にも解らない予見を訊こうとする方が間違いだ。 にしても、この Trump とかいう猿の親方みたいな爺いは面白い。 強気なんだか?弱気なんだか? 自国製品を強権的に保護しようなんて政策は、弱腰に他ならない。 保護されて蘇った産業など過去にあっただろうか? ものが売れない原因のほとんどは、売る側にある。 為替や課税政策をどう繕ったところで、売れないものは売れない。 日米の軋轢を振り返ってみても。 一九七〇年代の繊維製品、一九八〇年代の自動車、それ以降もみんなそうだったと思うけど。 売れないものを造っている会社に雇用創出は望めないだろう。 加えて、輸入関税を嵩上げするとその分物価は上昇する。 雇用は低迷し、所得は増えず、物価は高騰するという負のシナリオも描けなくはない気もする。 そこらへんを、この偉そうなお猿さんはどう考えてるんだろうか? お猿さんがどうなろうと、米国が何処へ向かおうと、知ったことではないが。 僕の懐が寂しくなるのだけは勘弁してほしい。 いづれにしても、この騒動で、誰かが儲けて、誰かが損をすることだけは確かだ。 Money ? 英国の喜劇役者が面白いことを言っていた。 Money is always there,  but the pockets … 続きを読む

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四百七十五話 笑顔が消えた街

  正午、港に停泊している船舶が鳴らす追悼の汽笛が神戸の街に響く。 海辺の家にも届けられる。 もう、二二年経つのかぁ。 この日ばかりは、どうしても思い出してしまう。 あの日の神戸を。 眼を凝らせば少しは良いことも街のどこか片隅にあったのかもしれない。 それでも、心から笑えたひとはひとりとしていなかったんだろうと想う。 夜明け前に、一切の笑顔がこの港街から消えた。 憶えている一九九五年一月一七日は、そんな日だった。

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四百七十四話 Irish Sweater

暮れに甘い酒が飲みたくなって。 Baileys Irish Cream 一瓶を酒屋で買った。 酪農が盛んな Ireland では、昔から Irish Whiskey にクリームを入れて飲む習慣がある。 これに習い Dublin で開発されたのが、このリキュールだ。 Kahlúa のようなべたついた甘さではなく、キレがあって旨い。 瓶の意匠もその味も洗練されたものではないが、野趣とも言える素朴な味わいに惹かれる。 極寒の北国 Ireland 。 ひとは、酒場に甘くて暖まる酒を求めたのだろう。 Baileys Irish Cream は、そんな地の暮らしから産まれた名酒なのだと想う。 厳しい風土では、衣食住に様々の知恵と工夫を凝らさなければ暮らせない。 酒だけではなく Irish Sweater もそのひとつだ。 Galway 湾に浮かぶ Árann 諸島西岸を産地とする Árann Sweater などがよく知られている。 漁師の嫁によって編まれるのだが。 その編み柄には、ひとつひとつ意味と願いが込められていて、家々によって柄は異なる。 凍える荒海での漁は過酷で、不幸にして命を落とす漁師も多くいた。 溺死による遺体の身元確認は難しく、編み柄の違いによって亭主かどうかを判別したらしい。 暮らしの知恵というには、あまりにも悲哀に満ちた話だが実際にそうだったようだ。 発祥は六世紀だと唱えるひともいるが、繊維史の常識からするとありえない。 … 続きを読む

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四百七十三話 酉年に

  海辺の家から、ご挨拶申し上げます。 新年明けましておめでとうございます。 旧年中は、この馬鹿ブログにお付き合いくださりありがとうございました。 本年も引き続き、暇つぶしにでもお読みいただければ幸いです。 ボケて、おかしなことを言ったり書いたりしていると気づかれた際にはご一報ください。 早めに病院に行きますので。 酉年に。 巴里の空を、鶏が龍を連れ立って飛ぶ。 未だ、どこへと向かうか定まっておりませんが、それなりに良い年にしたいと想っております。 皆さまにとっても、穏やかで恵まれた一年となりますように。

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