月別アーカイブ: October 2017

四百九十八話 貝酒場

夏に淡路島で貝焼を喰って以来、空前の貝ブームがこの身に訪れた。 が、いくら海辺の家の眼前とはいえ、いちいち島に渡るというのも面倒臭い。 どこかに、貝喰いの欲求を満たしてくれる飯屋が近場にないものか? 暇を武器に探した末に見つけた。 元町駅から歩いて五分くらい、北長狭通り神戸サウナの裏辺り。 路地の隅々にまで呑み屋がひしめく界隈に在る旧い雑居ビルの二階で営まれている。 シェルハラ 疑う余地もない屋号の貝専門店。 行くと、階段から降りてくるおにいちゃんに声をかけられた。 「シェルハラ行かはりますのん?」 「あかん!あかん!今晩も満席ですわ」 どうやら断られて帰るとこらしく、それからも二度ほど電話で満席と告げられた。 諦めていた数ヶ月後、近くで用事を済ませた帰り途。 日曜の晩方遅くの呑み屋街は意外と暇なので、ひょっとしたらと思い訪ねてみた。 「カウンターでしたらご用意させてもらいますけど」 一〇坪ほどのちいさな構えで、カウンター五席と卓がひとつ。 カウンターに女性客二人、卓は仏人客四人で占められている。 なんで?こんな飯屋に仏人? 英語も駄目らしくて、携帯の翻訳アプリを駆使して注文しているみたい。 これも、港街神戸の酒場ならではの風情かもしれない。 さて、肝心の貝飯だが。 各地から取寄せた旬の珍妙な貝を山盛りに蒸焼きにする。 あまりにも珍妙なので、訊いて覚えていてもどうせ手に入らないのだから無駄なので忘れた。 シェル・マニアという人種が、もし此の世に存在するのであれば。 間違いなく此処の店主は、 そうなんだろうと思う。 まさしく貝三昧なのだが、食感風味がそれぞれで食べ飽きない。 貝をオタクの域まで掘り下げると、こうなるといった具合で興味深い。 そして、〆のこれ! 蒸焼きのだし汁で炊かれた雑炊。 どう考えても不味くなりようのない逸品なのだが、その想像を超えて旨い。 この貝雑炊だけを目当てに通いたくなるほどに旨い。 どこの誰が喰っても旨いだろう。 居合わせた仏人客連中も揃って。 C ’est excellent !

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四百九十七話 泥棒の隠れ家

ちょっと描いてみた。 一九八〇 年代、香港の夏。 STANLEY の中国名は「赤柱」 泥棒の隠れ家という意味なのだそうだ。 あの頃、Market Road の路地裏には、まだこんな壁が残っていた。 Chinatown に咲く百合。 こんなだったか?どうだったか?今そう問われても、もうよくは憶えていない。 ただ、怪しくて淫靡な感じだけは、妙にあたまに残っている。 まぁ、それだけのことなんだけど。  

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