月別アーカイブ: September 2018

五百二十七話 我楽多 

ご無沙汰です、このところちょっと忙しいもんで。 思ったより大変だわぁ。 七〇年近く経った家を改築するのは。 建築家の先生からも。 「新築された方が、費用的にも精神的にも楽にやれますよ」 「でも、改築の方向で進められるんですよね」 「うん」 「えっ? 聞こえない、そうなんですよね?」 「はい!そうです!」 とは、答えてはみたものの、具体的に話が進み始めると段々と不安になってくる。 世の中、七〇年も刻が経つと、ほとんどの事象が姿を変えてしまう。 建築もそうだ。 構造から建材まで、あらゆることが昔とは違う。 世間的には、七〇歳を過ぎた木造建築に価値などない。 ひと言で言ってしまえば、我楽多だ。 その我楽多を解体し、使えるものを拾い出し、修繕し、組立直す。 場合によっては、用途を違えてでも使う。 床材を壁面に、食器棚に嵌めらた硝子を扉にとかいった具合で。 その度に構造的に大丈夫か? 修繕は可能か? 面積的に足りるか?など。 いちいち検証していかなければならない。 家全体が、複雑なパズルのように思えてくる。 もちろん、どうしても足りないピースもあって。 例えば、いくつかのドアノブは使えるけど、必要な建具の数には全く足りない。 同じ年代の真鍮製のを購入すれば済むのだけれど、その販売先は? そんな面倒が、床から壁から天井から建具へと続く。 こうしてお伝えすると、どんな文化財的に価値のある館なんだと想像されるかもしれない。 自信をもってお答えします。 “ 海辺の家 ” は、自他共に認める立派なただのボロ屋です。 建築家の大先生が言うには。 「まぁ、ねぇ、家の価値観は人それぞれだから」 って、アンタも腹中で、我楽多だと思ってんじゃねぇか!

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五百二十六話 糞台風!

こっわぁ〜! マジでおそろしいわぁ! 海辺の家のあたまの真上を通りやがった。 “ Jedi ” こと台風二一号。 北摂の自宅に居たので、ボロ屋の様子は実際にはまだ見ていない。 大阪も酷かったけど、ちゃんと生きてるのかが心配。 一夜明けて、駆けつけてくれた庭師からの報告では。 家屋は、無事。 庭は、ぐちゃぐちゃ。 五メートル近い梅の古木が倒れ、根っこが剥き出しになっているらしい。 「助けられる?」 「わからないけど、やるだけやってみる」 八〇歳を超える老庭師は、もう何十年もこの梅を世話してきた。 梅も老いたが、庭師も老いた。 今、梅を前にしているのは、代を継いだ娘の庭師だ。 「とにかく枝を打って、二股の幹を一本払って、埋め戻すわ」 「それから、囲いを作って支えようと思うんだけど、ちょっと見た目が悪くなるかも」 多分、ちょっとでは済まない姿になるだろう。 「いいよ!見た目なんかどうでも!とにかくやって!死なすんじゃないよ!」 「うん、わかった」 「これから、数ヶ月間水を欠かさず世話をしないといけないけど、どうする?」 「どうするもこうするも、俺と交代でやるしかねぇだろう」 寿命で尽きるのは仕方がないと諦めもするが、暴風から家を守って倒れたものを放ってはおけない。 見た目や、銭金や、手間の問題ではないだろう。 古屋に暮らすとは、そもそもそういうことで、面倒臭いものだ。 寒風のなか、毎年咲き始める梅の古木。 来年は、療養のため休業中につき、梅酒もなし!

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五百二十五話 千住博 と teamLab ★

水都 “ 大阪 ” には、たくさんの川が流れている。 そのうちのひとつ堂島川の畔に建てられた “ 堂島リバーフォーラム ” つい最近の施設のように思っていたけど、もう一〇年にもなるのだそうだ。 節目に、「水」をテーマにしたアート・イベントが催されるらしい。 手掛けたのは、日本画家 千住博と猪子寿之率いる teamLab★ どちらも、美術界の今を語るうえで欠かせない存在だろう。 Black Wave : Wander , Discover and Re-emerge 千住博筆の波が連綿と逆巻く様子が、壁一面に投影されている。 TECHNOLOGY と CREATIVE の境目は、どんどん曖昧になって、終いには消失する。 そう頭では、なんとなく理解できても感覚がついていかない。 この作品にしてもがそうだ。 波の挙動法則を、コンピューター内の三次元空間で模擬。 波自体を構成する粒子同士は相互に作用しながら、二次元の壁面上に平面化し投影される。 このわかったような、わからないような工程上の理屈が、純粋な鑑賞行為を妨げてしまう。 これが、千住画伯の作品原画だとそうはならないのだろうけれど。 やはり、どうもどこか馴染めない。 あたまと感覚が錆びついているからだと言われてしまえば、間違いなくそうだ。 ただ、興味深く感じたこともあった。 波は、壁面だけではなく、鑑賞者の衣服にも投影される。 白い服のひとは、壁面と同じく波が映され、黒い服のひとは、黒いシルエットが壁面に。 作品の内にあって、鑑賞というよりは、体感に近い不思議な同化現象を味わえる。 … 続きを読む

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