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カテゴリー別アーカイブ: 他
六百五十一話 忌明け
母が他界したって blog に載せたもんだから、いろんな方に気を遣わせてしまった。 ほんと、すいません。 お気持ちだけを有り難く頂戴いたします。 まもなく満中陰の法要を営み忌明けとなりますが、急な事でまだピンとこない始末です。 東京の友人から電話があった。 「大変だったねぇ。おいくつ?」 「九六歳」 「そんなに頑張っちゃたんだぁ」 「で、スッと幕引かれたんでしょ、立派だよねぇ、息子孝行じゃん」 「実感ないけどね」 「いらないよ、そんなもん、ご本人だって気づいてないんだろうから、きっとそうだよ」 「最高じゃん」 「俺の口からは言えないけど、いや、お互いの仲だから言っちゃうかぁ」 「ご逝去おめでとうございます!俺も見習わせていただきます!」 「これから四九日、百箇日と続くけど、しっかり長男の務め果たしてあげてください」 「この度は、ご愁傷さまでした」 まったくその通りだと想う。 ひとに祝ってもらえる死なんて、そうそうあるもんじゃない。
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六百五十話 極楽往生
八月九日の夕刻。 「口寂しいからなんかお菓子持って来てよ」 「いやいや三日後に帰ってくるんだから、ちょっと我慢しろよ」 「まぁ、じゃぁ、そうするわ」 「帰って来たら、焼肉でも食べにいく?」 「いいねぇ、焼肉、ありがと」 施設でリハビリテーション中の母から 掛かってきた電話でのやりとりだった。 二時間後、別の相手からまた電話が掛かってきた。 「急に倒れられて、意識をなくされているので今から救急搬送いたします」 「えっ?誰が?そもそもあなた誰?」 「お母さまです!施設の看護師です!」 「まぁ、とにかく搬送先の病院に向かいます」 台所で、夕食を支度していた嫁が。 「どうしたの?」 「婆さんが倒れたって施設が騒いでんだけど」 「なんかの間違いじゃないの?さっきの電話お母さんからだったんじゃないの?」 「うん、口寂しいとか、焼肉食いたいとか言ってたけどな」 向かった先は、国立循環器病センター。 救急救命の病床で、いびきをかいて寝ている母と対面する。 「先生、母の容体は、どうなんでしょうか?」 「多分、急性心筋梗塞だと思いますが、容体は、たいへん厳しいです」 「いや、母に心臓疾患なんてありませんよ、ってか、歯医者にすらかかっていないですから」 「雑なもの言いになりますが、どんな方でも九六歳の心臓は、九十六歳なりの心臓なんです」 端的に的を得た診断だと納得した。 「どうされますか?此処でなら積極的に手術という手も尽くせますよ」 「専門医の先生を前に失礼ですが、もう、いいです、それより、今、本人苦しいんですかね?」 「倒れられた瞬間ウッという感覚はあったかもですが、以後はなんの感覚もないと思います」 「じゃぁ、このまま・・・・・・」 「えぇ、逝かれるんじゃないかと」 翌朝五時、医師の推察通りそのまま亡くなった。 生前、母親はよく言っていた。 「わたし、蝋燭の灯がフッと消えるみたいに逝くんやから、勝手にいらんことせんといてな」 マジで、その通りに逝きやがった。 改めて想う。 これまでの人生で、母ほど生きたいように生きた人と他に出逢ったことがない。 運と人に恵まれ続けた九六年間。 ほんと羨ましいかぎりだわぁ。 合掌 … 続きを読む
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六百四十九話 梅雨時の一席
それにしても蒸し暑い! そんなじめついた梅雨空の下、大阪に落語を聴きにいく。 木戸銭叩いての落語なんて久しぶりだ。 “ 春風亭一之輔のドッサリまわるぜ!二〇二四 ” の大阪公演。 前座は、二番弟子の与いちで “ 磯の鮑 ” その後、一之輔師匠の “ 反対俥 ” “ 千両みかん ” と二題続いて仲入り。 この頃には、冷房と師匠の軽妙な話芸ですっかり汗もひき、良い心地で本日最後の演目へ。 大抵の寄席では、演目が前もって明かされることはない。 そのお題を噺家が本題に入る前に自分の中で言い当てるのも落語の楽しみのひとつだと思うのだが。 これが、なかなかに難しい。 師匠が、枕を振る。 米国大統領 Joe Biden が酷い老いぼれぶりで、世界はこの先どうなるのか?という時事ネタで誘う。 そして、外は梅雨時で雨。 雨のなか老いた隠居が登場する人情噺? “ 道灌 ” ? “ 天災 ” ? いまひとつわからんなぁ。 いよいよ本題に。 大店のご隠居ふたりが、縁側で碁を打つところから噺は始まる。 隠居?雨?そして碁? … 続きを読む
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六百四十七話 銀煙管
一七年ほど前、親父の遺品を片付けていた際の噺。 書棚から一本の煙管が出てきた。 煙草をやらない親父が煙管?不思議に思って嫁に尋ねると。 「お義父さん、なんか京都の煙管師に注文してたみたいよ」 鬼平犯科帳で長谷川平蔵役を演じた中村吉右衛門さんが劇中愛用されていた銀煙管らしい。 「馬鹿じゃないの!なんでまた?」 「さぁ?なんでだろうね、欲しかったんじゃないの」 原作者・池波正太郎先生は、 “ 大川の隠居 ” でこの煙管について語っておられる。 平蔵の亡父・宣雄が京都奉行時代、京の名工・後藤兵左衛門に造らせた銀煙管。 二〇センチほどの銀胴には、長谷川家の家紋 “ 釘抜 ” と “ 昇鯉 ” の意匠が凝らされてある。 結局のところ、何故親父がこれと同じ煙管を注文したのかは今でも分からない。 そもそも遺品整理の際に交わした噺などすっかり忘れていた。 そんな記憶の片隅にもなかった煙管が、昨日劇場で蘇る。 新時代の “ 鬼平犯科帳 ” が幕を開けた。 叔父に代わって、五代目火付盗賊改方長官・長谷川平蔵 役を務めるのは、一〇代目松本幸四郎さん。 若き日の平蔵・銕三郎役を、長男・八代目市川染五郎さん。 密偵・同心・盗賊など、欠かせない役所にも納得のいく役者の方々が顔をそろえられている。 見事な配役だと思う。 また、山下智彦監督はじめ脚本・撮影・照明・録音・殺陣・美術・衣装・床山など、製作陣も一流。 “ 分とくやま ” 亭主・野崎洋光さんまでが、料理監修として名を連ねる。 … 続きを読む
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六百四十四話 Calla ?
九〇歳になられる友人の母親からなんか描いてと頼まれた。 「えぇ〜、なんかって何描くの?」 「これ!描ける?」 “ Calla ” の写真が携帯に送られてきた。 ちょうど都内の仏料理屋で昼食中だったらしい。 ちょうど目の前の食卓にたまたま生けてあったのが “ Calla ” だったようだ 。 そこそこ雑な注文だなぁと思いながらも。 「そりゃぁ、描けますよ、それなりの腕してんだから」 「号お幾ら?年金暮らしなんだから出来るだけお安くね」 都内の一等地で暮らし、昼から☆付の仏料理食ってる方の台詞とも思えない。 まぁでも、せっかくそう言っていただいたんだから描いてみることにする。 普段植物画を描く際は、実物を眺めて正確にそのかたちを映す。 だいたいが海辺の家の庭に咲く植物を描くのだが、あいにくと “ Calla ” は植わっていない。 画像検索してみたところ、花の写真ばかりで葉形や根の形状がいまいち不明だ。 解説文に、葉は里芋に似ており、根は球根上部より張ると記されている。 よく解らんが、葉は里芋を参考にして、tulip 球根の上部から根を描いてみるかぁ。 おぉ、筆を進めると、なんか “ Calla ” な感じに仕上がってきた気がしなくもない。 気に入っていただけるかどうかは知らんけど、とりあえずこれで筆をおく。 お待たせしました。 “ Calla ” みたいな水彩画をお送りいたします。 おばさん、いつまでもお元気で! … 続きを読む
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六百四十三話 舞台 Odessa
今月の始め芝居を観にいく。 三谷幸喜作・演出 柿澤勇人 宮澤エマ 迫田孝也 出演。 “ Odessa ” 大阪公演初日。 中身もまったく知らず、ただ誘われるままに観た。 Odessa の地名から Ukraine 港湾都市のことで戦争に絡めた重たい話かと思ったけど違った。 そもそも舞台は、米国 Texas 州の Odessa という田舎町。 登場人物は、三人。 地元署の日系米国人女警官、鹿児島出身の殺人事件容疑者、偶然にも容疑者と同郷の通訳。 警官を宮澤エマさん、容疑者を迫田孝也さん、通役を柿澤勇人さんが演じている。 言語は、二つ。 日本語が解らない警官、英語が解らない容疑者、そして双方の言語が解る通訳。 真実は、一つ。 容疑者は、黒か?白か? 或いは、真実は白なんだけど実は黒? この後、福岡、宮城と公演は続くので、結末には触れないでおく。 舞台は、 Texas 州の幹線道路沿いにある diner 。 警官が、言葉の通じない容疑者を通訳を介しながら聴取していく。 その奇妙なやりとりが進む中、繰り広げられる三つ巴の心理戦を描く密室劇。 米国の Odessa と日本の鹿児島、Global だけど Local という設定がまた絶妙。 二つの言語と二つの文化が交錯する言葉の世界。 なにがどう面白いか? 伝えることが儘ならないけれど、確かに笑える。 膨大な台詞を巧みに回す三人の演者も凄いが、劇作家 三谷幸喜先生の着想も素晴らしい。 … 続きを読む
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六百四十話 あけましておめでとうございます。
二〇二四年辰年が明けました。 DRAGON YEAR です。 無事、暖かく穏やかな良いお正月を迎えることが叶いました。 窓から眺める海峡。 風もなく、波もたたず、磨いた鏡のように輝いています。 今年一年こうあって欲しいと想えるような朝です。 これから過ごす一年が、皆様にとっても良き年でありますように。
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六百三十七話 魔除け?
海辺の家の裏手で生まれて、今は丹波篠山の山里に暮らすおとこがいる。 おとこは猟師で、猪や鹿や熊など獣を獲るのが稼業だ。 若いが、猟師としての腕は良いらしい。 仲間内での呼び名は、カーリマン。 優れた体幹を備え、見た目も良く、講演などもこなす口も達者だ。 数年前にちょっとした縁で知りあった。 お陰で、海辺の食卓に山の幸が加わるようになる。 この鹿肉のソーセージをはじめ、春先の脂が少ない猪肉は炭火で焼いて焼肉に。 熊肉はそぼろにして丼物でと野趣な彩りを食卓に添えてくれる。 ある時、カーリマンから狩猟法について教えてもらう。 「食肉として用いるものは、全て罠猟と決めているんです」 「でないと、血が巡ってしまって臭みが残り旨くないんで」 「ってか、食肉以外で獲ることあるの?」 「そりゃぁ、頼まれれば駆除とかで、その際は銃で撃ちますけど」 「その後の毛皮と骨は、こんな風にして残します」 鹿と思われる数枚の毛皮と白い頭蓋を見せられた。 「ヘェ〜、綺麗なもんだねぇ、欲しいかも」 「マジですか、じゃぁ、今度、骨を傷つけず一発で仕留めてきますよ」 一年後、届いたのがこれ。 眉間中央に一発の銃痕、歯の一本も欠けていない完璧な鹿の頭蓋。 凄腕の成せる仕業で、仕上げも完全オーガニックなのだそうだ。 早速、海辺の家の壁に飾ってみる。 欧州では、鹿は崇拝の対象、神の化身、英雄的な探求の象徴として館に飾る習わしがある。 逆に、風水では、骨は死の象徴として嫌われるらしい。 まぁ、どっちも信じてないから問題ないけど。 丁度、隣家に暮らす嫁の幼馴染が、スワッグをクリスマス用に創って持ってきてくれた。 彼女は、人気のフローリストとして活躍している。 で、合体させたのが、これ。 これで、良いクリスマスになります。感謝!
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六百三十六話 ゴジラ ー1.0
十一月十一日の夜。 骨の折れた右手を抱かえながら late-night screening の IMAX で観た。 “ ゴジラ -1.0 ” 内容は明かせないが、作品の素晴らしい仕上がりに魅せられました。 思えば、劇場で初めてゴジラを観たのは一九六四年の春だった。 “ モスラ対ゴジラ ” ゴジラを世に送り出した本多猪四郎監督と円谷英二特技監督が手を組んで制作された第四作。 以来、ゴジラは幼少期の記憶のど真ん中に居座り続けることになる。 昭和の時代、東宝ゴジラに続け!との大号令のなか他にも怪獣映画が制作された。 大映は “ 大怪獣ガメラ ” 、日活は “ 大巨獣ガッパ ” など。 父親は、当時活動屋として日活に在職していたのでガッパ制作側だった。 円谷監督の片腕だった渡辺明を特技監督として招聘し挑んだ日活唯一の怪獣映画。 封切初日、父親の冴えない顔を今でも憶えている。 「怪獣とか慣れへんことやるもんやないなぁ」とか言って、持帰ったポスターを眺めていた。 ガッパに限らず、過ぎゆく時代の中で他の怪獣達も産まれては消えていく。 だが、ゴジラだけは違った。 興行収益の紆余曲折はあったにせよ、昭和・平成・令和と生き抜いて今も銀幕に堂々と立つ。 いったいゴジラとは何者なのか? その答えのひとつが、作曲家 伊福部 昭先生によって創造されたあの鳴声にあるのだと思う。 ゴジラの鳴声は、一九五四年の初回作から大きくは変わっていない。 … 続きを読む
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六百三十五話 骨折
ご無沙汰しております。 何故ご無沙汰しているかと言うと、利腕の手首を骨折したから。 先月からのギブス生活からようやく解放され、こうして blog でも更新してみる気になった。 骨折の理由は、あまりのくだらなさ故に口が裂けても言えない。 医者も手術か昔ながらの保存療法かで迷っていたが、後者を選んで自力治癒を目指すことにした。 ギブス装着期間は、左手頼みの不自由さはあったもののたいした痛みもなかったのだが。 問題は、外したその後からだ。 ちょっとの動きにも痛みが伴う。 医者から。 「痛かろうが、腫れてようが、とにかく動かしなさい」 と言われ、一枚の紙を渡された。 そこには、New York Yankees 松井秀喜選手の取材記事が記されていて。 二〇〇六年五月に手首を骨折して三ヶ月後に復帰するまでのいわゆる闘病記録だ。 医者は、松井選手もこんなに頑張ったんだから、おまえも頑張れよ的な趣旨だったんだろう。 だけど、そもそも、俺は、major leaguer じゃない! そして、めでたく治ったところで、 この右手が何億円も稼ぐことは今後おそらくない! 天と地ほどに motivation が違うだろう! なんの慰めにも励みにもならんわぁ! とはいえ自分が撒いた種で、悪いのは自身だ。 誰にも文句は言えない。 朝起きて、言われたとおり手首をグリグリまわしてみる。 痛ぁぁぁぁ!どんだけぇぇぇ!
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