月別アーカイブ: December 2024

六百五十五話 良いお年を

仏道の決まりで、新年のご挨拶は控えさせていただきます。 皆様、良い年を迎えられますように。 明年もよろしくお願いいたします。                  二〇二四年大晦日      

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六百五十四話 異世界ビジネス

Main culture どころか Sub culture にすらなれない。 しかし、いつの時代にもそれは確かに存在する。 Culture の周縁に居座る異彩の領域。 日本美術史の系譜にも、江戸時代?いや、もっともっと昔から隠れるようにして在る。 怪奇美術とも暗闇美術とも言われ受け継がれてきた。 一九八〇年代の業界にも継承者はいた。 「あいつ、上手いのになんであんなひとの身体から膿が出るような絵ばっか描いてんの?」 「気持ち悪いよなぁ、でもあれでどうやって飯食ってんだろう?」 「きっと、ああいうの好きな輩が意外といるんじゃないの」 「でも、あれ、描けって注文されて描けるもんかなぁ?」 「一枚二枚なんとかなっても、ずっとは無理じゃねぇ」 「ところで、あいつ、なんていう名前のやつだった?」 失礼極まりない話だが、だいたいがそんな感じだった。 とはいえ、この異界の扉をまったく開けたことがないという人もまずいないだろう。 一九六〇年代、まだ貸本漫画が流通していた時代に現れたふたりの天才によるところが大きい。 ひとりは、“ 墓場の鬼太郎 ” の水木しげる先生。 もうひとりは、“ 紅蜘蛛 ” “ 蛇少女 ” の楳図かずお先生。 巨匠が描く怪奇漫画は、少年少女を虜にし居所は周縁ながら一躍皆が知るところとなる。 そして今、怪奇美術界で筆をふるう絵師達の多くがこの時代に生まれ多大な影響を受けている。 最初に読んだ漫画が楳図かずおの “ ミイラ先生 ” だったという伊藤潤二もそのひとりだと思う。 先日、伊藤潤二展 … 続きを読む

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六百五十三話 邸宅で観る Andrew Wyeth の絵

もし、米国という国家に一片でも善良な心があるのだとしたら。 その心を画業に於いて表現しえた唯一無二の画家だと僕は信じている。 “ Andrew Wyeth ” 一九七四年、初めて目にする Wyeth の絵に受けた衝撃を今でもよく憶えている。 徹底した基礎訓練による圧倒的な技術。 解剖学の領域にまで達する写実的人物像への探究。 当時中学生だったが、こんな絵を描く画家が世界のどこかにいるという事実に驚いた。 自分は十四歳、画家は五七歳。 事と次第によっては、自分も将来一枚なりとも描けるようになるかもしれない。 そうした錯覚から水彩画を始めた。 努力も探究心もなにより才能も到底足らざるまま今だ一筆たりとも描けていない。 画家は生涯を米国北東部の原風景とそこに暮らす人達を描くことにひたすら費やした。 夏場は Maine 州 Rockland 郊外、冬場は Pennsylvania 州 Chadds Ford と居を移しながら。 一九八七年頃、米国出張で初めて両地を訪れた。 建国時代に遡る清教徒的な雰囲気は、画家の青年期から比べると随分薄らいでいたのだと想う。 それでも物質至上主義を謳歌する他の地域にはない禁欲的な空気感が僅かだが確かにあった。 実は、米国という国の始まりは善良な精神に基づいていた。 四〇年近く経った今、そんな与太話を信じる者はもう誰もいない。 今、米国のどこを掘り返してみてもそんな証はどこにもない。 だが、善良な精神の記憶は Wyeth の絵にだけはこうして残されている。 一九四八年 Andrew Wyeth は、現代米国具象絵画の最高傑作とも評される作品を産む。 “ Christina’s … 続きを読む

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