月別アーカイブ: April 2016

四百四十四話 さて、これから。

ようやく、店の引渡しを終えた。 長年同じ場所で頑張ってきた甲斐もあって。 ビル側も、取引先も、 業者も、ほんとうに親身になって良くしてくれた。 大助かりです。 知合いからは、気をつけないと手仕舞いは揉めるぞと忠告されていたけれど。 そういったこともなく、気持ち良く終えられました。 此処で、また誰かが新たに商売を始められるんだろうと思う。 その誰かに伝えたい。 此処、家賃は結構高いけど、縁起は良いですよ。 なんせ、一年保てば上々と言われる梅田の一丁目で四〇年以上商うことが出来たんだから。 少々、商才に欠けるひとでもなんとかなるんじゃないかなぁ。 まぁ、頑張って稼いでください。 さて、これからだけど。 いろいろと身にあまる有難い話も頂戴して、正直迷っていますが。 とにかく、いろんな方に会って、いろんな話をお聞きして、世の中も見て。 そして、なにかしようとなったらやろうかと思っています。 口の悪い小僧もいて。 「なにも創らなくなった䕃山さんなんて、物分かりの悪いただのおっさんでしょ」 礼儀の知らない野郎で、失礼にもほどがある。 だけど、それもそうなのかも知れない。

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四百四十三話 公務員

Musée du Dragon を営んでいた大阪マルビルの南隣に駅前第三ビルという高層ビルが建っていて。 其処の二一階に熊本県大阪事務所は設けられているのだそうだ。 そう聞くと、 さすがに知らぬ顔も出来ない。 ちょっとお見舞いに伺ってみた。 事務所には、県職員の方々が詰めておられる。 ほとんどの方が、故郷に家族を残し単身で赴任されているらしい。 避難所に家族がという方も。 一刻も早く帰郷したいんじゃないかなぁ? そうでなくとも公務員の職責は軽いものではない。 特にこういった際には、平時では想像も出来ない重荷を背負うことになるんだろう。 私事を脇に置き、遠く離れた土地で公務を果たされているのだと想うと。 心中を察せざるをえない。 頭を垂れて義援金を受取られていた女性職員の方も、その表情はいかにも辛そうにみえる。 大勢の方々が、災厄に見舞われ辛い状況を耐えておられる。 公務員も、そうした被災者のおひとりであり、その家族なのだ。 なにか言葉を掛けるべきなんだろうけれど。 情けないことに、それが出てこない。 大阪熊本県事務所 : 大阪市北区梅田一丁目一番三号 大阪駅前第三ビル二一階   

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四百四十二話 熊本地震

眠れない夜を過ごされたのだと思う。 こういう夜は、ほんとうに長い。 そして、怖い。 おとなだって怖いんだから、こどもはもっと怖いんだろう。 怖くて眠れない夜ほど嫌なものはない。 気をつけろとか、冷静にとか、声をかけあってとか、いろいろ言ってくれるけど。 怖いものは、なにをどうしたって怖いんだよ! 闇のなかで、地べたが動く。 喩えようもない恐怖だ。 もう二度と御免だけど、御免だと願っても多分許されないだろう。 この国に暮らすということは、そういうことなのだと諦めるほかない。 どうかご無事で。

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四百四十一話 幕末対決! 国芳 対 国貞

道玄坂に在る Bunkamura THE MUSIUM へ。 此処は、松濤の超高級住宅街と猥雑な風俗街とが背中合せにくっついているという妙な街だ。 僕にとっては、まことに縁起の悪い場所でもある。 鬼門だと言っても良い。 此処に来ると碌なことはない。 ちょうど Bunkamura を通り過ぎて一分ほどのところに ANSNAM のアトリエが在った。 あの中野靖の ANSNAM だ。 一月に店を閉じて、もうすっかり奴の存在など忘れ去っていたのだが。 さすがに、この辺りを歩けば思い出さずにはいられない。 あぁ、奴は今頃どうしてんだろう? Musée du Dragon を閉じた同日に、此処松濤のアトリエも閉じたらしいけど。 いやいや、気にしてはいけない。 知ったことではない。 関わってはならない。 せっかくの展覧会が台無しになりかねない。 気を取り直して本題に入ろう。 方角は凶だったが、会自体は吉だった。 幕末の浮世絵両雄が渋谷で激突。 俺たちの国芳、わたしの国貞。 この表題は、なかなかに洒落ている。 幕末の江戸。 財政は緊縮抑制下にあり、質素倹約・風紀粛正が市中を暗く覆っていた。 天保の改革による謂われ無き糾弾に筆一本で対峙した歌川国芳は、江戸庶民の HERO だった。 抜群の筆さばき、奇想天外ともいえる着想、不屈の反骨精神は、まさに幕末の PUNKER … 続きを読む

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四百四十話 The House

今年も海辺の家に桜が咲く。 年々、枝を広げて今では家を覆うまでになった姥桜。 一八の頃出逢って、この姥桜の艶姿を眺めるのもこれで三八年目かぁ。 手間のかかる婆婆だが、こうして見上げるとなかなかに贅沢な気分になる。 そして、桜は、鳥を呼び、ひとも呼ぶ。 桜に誘われて、この古家を訪れてくれたひと達は。 飯を喰い、酒を飲み、寝て、起きて、また桜を眺める。 まぁ、たいして眺めていない者もいるが、それはそれで良い。 賑やかに楽しめればそれで良い。 今日で宴も四日目だが。 なかには、二〇代のおとこも二人ほどいて朝から晩までごろごろしている。 親子ほど歳の離れたのが、なんの気兼ねもなく過ごしているのも不思議な景色だ。 おっさんとおばちゃんが棲む古家のなにを気に入っているのだろう? 訊くと、なんとなくこの古家が良いのだそうだ。 家にも性というものがあって、ひとに愛される家というものは確かにあるのだと思う。 また、どんなに豪邸であっても、その逆であっても、居心地の良くない家というのもある。 このなんの贅も尽くしていないただの古家のなにが良いのか? 僕自身にもよくわからない。 よくわからないが、ここに居ると妙に穏やかな心持ちになれる。 まだこの古家が、こんなに古家でなかった一〇代の時分からそれは変わらない。 二年前、夫婦で話合ってこの古家を残そうと決めたのもそういった理由からだった。 ただ、残すのは残すにしても。 さすがに震災で傷ついた上にここまで古い家では、修繕改築は免れないだろう。 新しく建てなおすのは造作もないのだが、それで家が宿した空気感が失われては元も子もない。 そう考えてると、再建の踏ん切りがなかなかつかない。 嫁の要望は簡潔だ。 「この感じのままで、丈夫な家にして頂戴」 「ぴかぴかで、白々しいのは絶対嫌!」 「あんた、そういうの得意じゃん」 だから、それが難しいんだろうがよぉ!

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