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月別アーカイブ: June 2012
百十五話 世にも恐ろしい白雪姫
先日ルパート・サンダース監督作品 “ Snow White & The Huntsman ” が公開された。 中身はあれですよ、あれ。 “ Mirror Mirror on the wall…………, Who the fairest of them all? ” ⎡鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ?⎦ ⎡知るかよ⎦って話だが、そうです白雪姫です。 ホセイン・アミニさんの脚本がどうなっているかは知んないけど。 興行宣伝用の口上にはこうある。 ⎡おとぎ話は終わった。今、新たなる白雪姫伝説が始まる⎦ 僕の中でもおとぎ話はとうの昔に終わっている。 だから絶対に観ないからね。 怖いんだよ、怖過ぎるですよ、白雪姫は、いやグリム童話は。 心的ストレス障害にでもなったらどうしてくれるんだよ。 もうこれ以上、この歳になって心に傷を負いたくないからね。 昔、筑摩書房出版の⎡グリム童話⎦を読んだ。 おとぎ話の⎡白雪姫⎦は児童書として良い子に広く知られている。 では、ほんとうの⎡白雪姫⎦には何が記されているのか? 良い子に知らされていないところだけを少しご紹介させて戴く。 森で迷った王子が柩に横たわる白雪姫の死体を見て小人に頼む。 ⎡この死体を売ってくれ⎦ 断る小人に王子は再び乞う。 … 続きを読む
Category : 他
百十四話 ここは湘南
猫の目のように天気がころころと変わる。 その都度、姿や音も匂いも変わる。 初夏の嵐が思いもかけない恵を旅に添えてくれた。 いにしえの都に入梅の雨が降る。 紫陽花も濡れる、仏も濡れる。 浜に出れば嵐を告げる海鳴りが微かに沖から届く。 嵐は、真夜中にやって来て明方を待たずに去って行った。 六月二十日水曜日快晴。 まさに⎡ Big Wednesday ⎦ 一九七八年公開の米国 Surf Movie なんだけど。 天と交わされた約束の大波がやって来る。 地元の腕利きサァファーが一斉に白く大きな波浪に向かう。 浜辺に立てかけられたボードの影が長く伸びて、稲村ケ崎に日が沈む。 まぁ、こんな感じかな。 でもお陰様で良い旅でしたよ。 凡庸とした旅でも少なからず何がしかの目的はある。 さわりを少しだけ紹介させて戴くと。 (一) 嫁が幼い頃一時期を過ごしたと云う逗子の住処をかつての記憶を頼りに探す。 (二) 伊集院静先生と夏目雅子さんの仲人を務められた三倉御夫妻が営む鮨屋にお邪魔する。 (三) 横浜に住む美人で聡明で堅実だがどこかおかしい学生時代の友人と会う。 (四) 由比ケ浜に在る独逸料理店⎡ Sea Castle ⎦の店主カール・ライフ婆さんの毒舌を聴きに行く。 (五) 今は無き⎡ Nadia ⎦の伝説の凄腕女性シェフ原優子氏が開いた⎡ Manna ⎦で伊料理を堪能する。 後は北鎌倉で紫陽花や竹林でも眺めて過ごそうかと思う。 それにしても。 前にも想ったが、此処湘南界隈は嫁の実家が在る神戸の西域に連なる海辺の街並と似ている。 東の街は源氏が西の街は平家がその礎を築いた。 海辺を行く鉄道も江の電と山陽電鉄と、歩いた方が早いんじゃないかと思う速度感も同じだ。 … 続きを読む
Category : 旅
百十三話 ANSNAM 〆の逸品
下手に尋ねる。 ⎡今、忙しい?⎦ ⎡秋冬コレクションの準備や何かで結構忙しいですねぇ⎦ ⎡ふ~ん、ちょっと頼みがあるんだけど⎦ ⎡何ですか?ややこしい話じゃ無理ですよ⎦ ⎡真夏に涼しくてベタつかなくて気持ちよく着られる服創ってよ⎦ ⎡目一杯ややこしいじゃないですか⎦ ⎡しかも、今着る服を今すぐ創れっていう話ですよねぇ⎦ ⎡世間がセールとか言ってるこの時期に無茶でしょう⎦ ⎡そこを何とかするのが、天才中野靖なんだよ⎦ ⎡え~、そうなんですか?⎦ ⎡じゃぁ、ちょっとやってみようかな⎦ ANSNAMの中野靖君はほんとに頼りになる良い奴だ。 僕が欲しかったのは “ Tunic ” と “ Shirt ” を合わせたようなアイテム。 日本でチュニックといえば女性用の夏物上衣というイメージがあるが。 もともとは古代ギリシャやローマ時代の “ Tunica ” を祖とする男女兼用の装束である。 夏服の起源といっていい。 構造は究極に単純である。 なんせ布を被るだけで用が済むのだから。 しかし服でも何でもそうだがモノづくりは単純なモノの方が難しい。 着脱とゆとりの狭間でここしかないというところで線を引く。 こういったモノを創る際には時間をかけてはいけない。 迷い始めるときりがない。 時間のない場面で一気に仕立てる。 上質の布と最低限の付属品を、裁断と縫製の技術だけを頼りに魅せる。 布は、Albini社の Graph Check … 続きを読む
Category : 衣
百十二話 六月十八日から四日間の臨時休業です。
ビルがフロアーの改装工事をしたいと言ってきた。 その期間を休むことにする。 店屋を営んでいると、なんの商いであれまとまった休みがとりにくい。 出張先からひとりでどっかへというのはあっても、夫婦での旅となると難しい。 勤人の頃は季節ごとに出かけていたが、今では年に一度か二年に一度くらいがやっとである。 この前一緒に旅をしたのは一昨年だった。 今回は良い口実が巡ってきた。 なので、ちょっと出かけてきます。 休んでいる間、ANSNAMの中野靖君が 珍しく一仕事やってくれている。 やってくれているはずだけど。 今期最後のアイテムとして、Summer Tunic Shirt を Musée du Dragon のために創ってくれるらしい。 創ってくれているはずだけど。 靖君との約束どおりにいけば休み明けの二十二日金曜日にはご覧いただけると思います。 他所では見かけない奇妙な逸品に出逢えるかもしれませんよ。 いずれにしても、勝手を申し上げますが四日間お休みさせていただきます。 六月十八日月曜日から六月二十一日木曜日まで、店舗もブログも四日間の臨時休業です。 よろしくです。
Category : 他
百十一話 情報革命の夜明け
風呂に入ってくつろいでいると。 嫁が誰かと電話で話をしている。 ⎡いつの話?⎦ ⎡嘘でしょ?⎦ ⎡凄いじゃん⎦ 風呂から上がって尋ねる。 ⎡なんかあった?⎦ ⎡今日ジェイコムが来たんだって⎦ ⎡何処に?⎦ ⎡わたしの実家に⎦ ⎡なんで?⎦ ⎡CATVの設置にだって⎦ ⎡いろんな映画観れるんだから良いんじゃないの⎦ ⎡それだけじゃないよ⎦ ⎡PCも買ったんだって⎦ ⎡マジでぇ~、誰が使うの?⎦ ⎡ひとりしかいないんだから、ママに決まってんじゃん⎦ ⎡八四歳でパソコン・デビューってかぁ?⎦ ⎡うん、凄いよねぇ⎦ 遂に義理の母が住まう海辺の古館にも情報革命の波がやってきた。 八四歳にして革命の世が明ける。 でもよく考えてみれば家に居ながらにして世界と繋がるんだから悪くない。 “ Inter-network ” まことに横着な代物だが出歩く事が簡単ではない人にとってはこの上ない効能を発揮する。 高齢者にとっても同じく値打ちものだ。 指先ひとつで諦めていた事や億劫だった事の多くが解決する場合もある。 問題は、受入れるか受入れないかだろう。 ⎡私も歳だから⎦とか母は言ったりなんかしない。 嫌な時代になったもんだと言う人もいるけれど。 せっかく今を生きているんだから、時代を拒むことなく、時代を受入れて楽しく暮らした方が良い。 きっとその方が上等な人生を送れるとわかってはいても。 歳を喰うとなかなかに難しい。 どこまでやれるかは別にして、母は生き方を心得た人だ。 先日、母から娘に電話があった。 ⎡あんたの店、短パン売れないんだって大変ねぇ⎦ ⎡なんで知ってんの?⎦ ⎡なんでって、そう書いてあったから⎦ ⎡えっ、ブログ読んでんのぉ?⎦ … 続きを読む
Category : 他
百十話 Greatest Botanic Hunter T-SHIRT
タンポポが、たくさん咲く。 今年もこのアイテムが店頭に並ぶ季節になった。 Musée du Dragon 夏恒例 Special T-Shirts です。 初夏の風物詩です。 とは言ってもうちの顧客様だけしか知らない。 たかが T-Shirts とはいえこだわるとこにはこだわり、やるべきことはやる。 生地も、型も、絵も、このアイテムのために準備している。 生地屋、縫製屋、プリント屋それぞれが一線級のブランドを製作している連中でもある。 絵は僕だけど。 自分が創って自分で言うのもどうかと思うが、どうせ誰も言ってくれないので言わせて貰うと。 この T-Shirt 悪くないですよ。 そして、この T-Shirt には物語がある。 一六九〇年、長崎の出島に Engelbert Kaempfer という独逸人医師が渡って来る。 実は彼の正体はプラント・ハンターじゃなかったのかっていう話。 詳しく知りたいという奇特な方は十二月二日に書いた五十七話 “ Botanic Hunter ” でもお読み下さい。 “ Greatest Botanic Hunter T-SHIRT … 続きを読む
Category : 衣
百九話 LYTHAだゾォー。
あ~、くだらねぇ~。 どってことない話なんで、せめて写真でもと思って撮ってみたけど。 写真もくだらなかった。 面目無い。 だいたいが何とか書こうと思っても、なんとか撮ろうと思っても。 地味なんだよ。 左から見ても右から見ても、上から眺めても下から眺めても。 普通なんだよ。 文句ばっかり言ってても埒が明かないので、やるだけやってみるけど。 え~と、なんだっけ。 素材は、綿が五二%でキュプラが四八%のブロードで。 型は、レギュラー襟の半袖シャツで。 そういや、袖が通常よりもちょっと長くて。 色は、ネイビー・ブルーで。 だいたいそんなとこかなぁ。 ほらみろ、やっぱり普通の半袖シャツじゃないか。 ⎡このシャツ俺のサイズ発注してあるの?⎦ ⎡あるんなら、ちょっと試しに着てみようかな⎦ 面倒臭かったけど着てみると。 ⎡このシャツなんか良くない?⎦ スタッフも。 ⎡良いんじゃないですか⎦ ⎡どこが良いんだろう?⎦ ⎡さぁ~、どこでしょう⎦ ⎡やっぱり、デザイナーが凄いんですかねぇ?⎦ ⎡そんなことはないはずだけどなぁ⎦ ⎡違う意味で凄いかもしんないけど⎦ この悲しいくらい普通のシャツは LYTHA です。 そして、ご存知中野靖君が創りました。 だから、良いんだけどわかりにくいんだって。
Category : 衣
百八話 Goodbye Butterfly
今年はいつもよりたくさん咲いた。 庭にいる Old English Rose の晴れ姿なんだけど。 品種名は、二十世紀初頭の園芸家ジェキル女史に因んで Gertrude Jekyll という。 英国民にもっとも愛される薔薇の品種として知られている。 今年は、倫敦オリンピック開催をはじめ英国にとって節目の年になるだろう。 Queen Elizabeth II も即位六十周年を迎えられ、御年八十六歳になられる。 天皇陛下もそうだけど、下々でいうところの楽隠居って訳にはいかないんだろうな。 ロイヤル・ファミリー、日本国においては皇室ということになる。 外交という国際舞台で日本が序列一位の席を確保できる数少ない領域のひとつだろう。 悠久の歴史の中で皇室と国民が一緒になって大切に守り育んできた。 無形にして世界に誇れるブランドと言えるかもしれない。 服飾の世界でも皇室に係わってきたデザイナーがおられる。 森英恵先生。 一九七七年に巴里でメゾンを開かれ、仏オートクチュール組合所属の唯一の東洋人となられる。 以前勤めていた紡績会社との御縁で、巴里でのショーを拝見したことがある。 凄いなぁとは思ったが、正直よく理解出来なかった。 オートクチュール・メゾンとは数百人しかいない顧客に向けてのみ存在する閉ざされた世界である。 理解するためには生まれ育ちからやり直さなければならない。 一九九二年、バルセロナ五輪日本選手団の公式ユニフォームを担当される。 この五輪では、僕のデザインも陸上競技日本選手団に公式採用していただいた。 ちっちゃい自慢なんだけど、自分のデザインしたものに日の丸が冠されるって畏れ多い話ですよ。 それに独立して始めたデザイン事務所の初仕事だったんで嬉しかったなぁ。 すいません余談でした。 翌年の一九九三年、おそらく先生にとって最も大きな仕事に臨まれる。 皇太子妃が結婚の儀でお召しになられるローブ・デコルテの製作。 服飾技術の中でも究極の難易度を要求される最高礼服である。 しかも、年齢、性別、階層、習慣が異なる世界中の人々に同じ印象を与えなくてはならない。 さらに、大勢の人に長く記憶として留まる歴史的な衣装は時代に褪せない強さも要求される。 国にとっても先生にとっても絶対に失敗の許されない大舞台である。 披露されたローブ・デコルテは見事だった。 … 続きを読む
Category : 庭