月別アーカイブ: August 2020

五百五十一話 新たな世界へ 

FIGARO・JP で、デジタル・ファッション・ウィークの映像を観ていたら。 “ doublet ” 2021 Spring & Summer Collection の作品が目に飛び込んできた。 “ なんでもない日おめでとう ” 予定していたクリエーションを全て破棄して、急遽設定されたテーマらしい。 Fashion が、世界になにかを伝える。 なんてことは、もう絵空事でしかないと思っていたけれど。 最大限の熱量をもって臨めば、それは実現するのかもしれない。 “ doublet ” デザイナー 井野将之 が描く新たな世界。 こうであればいいのにという希望、きっとこうなるという自信、こうしなければという覚悟。 これを観た世界中の多くのひとが、肯定的に受けとってくれるんじゃないかな。 とにかく素晴らしいわ! なんかいろんなことが思い出されて、ちょっと涙腺が緩んでしまった。 井野くん、熊?役の熱演ごくろうさまでした。

Category :

五百五十話 台湾人の夏ごはん

八月。 この国の夏は暑いけれど、もっと過酷に暑い国も近くにある。 夏の台湾を訪れたことはないが、そうらしい。 神戸は、台湾のひとも多く棲む街で、その食文化に触れる機会も多い。 海辺を通る国道沿いに、ちいさな食堂が暖簾を揚げた。 店主は、台湾からやって来た女性だそうだ。 国立台湾芸術大学卒の水墨画家で、料理研究家でもあって、名を Lin Sieii  という。 またなんでこんな場所で? とは思いはしたが、まぁ、それなりの事情があるんだろう。 “ 小宇宙食堂 ” 屋号からして、台湾の不思議ちゃんの気配がする。 ほんとうにちいさくて、ややおおきめの屋台くらいの食堂だ。 Lin Sieii 筆の水墨画が飾られいる。 淡く素朴な水墨画だが、筆法は巧みで、値段次第では欲しいかもしれない。 ただ、描かれた題材は、やっぱりちょっと不思議ちゃんの匂いが漂う。 この日、店主不在で、店番は若いおにいちゃんがひとりで仕切っていた。 渡された品書に目を通したが、なんのことかさっぱりで、味はおろか見た目の想像すらつかない。 「滷肉飯ってなに?」 「ん?あぁ?ルーローハン?」 「いや、俺が、訊いてるから」 「つうか、おにいちゃん、日本語大丈夫なのかな?」 「えっ?なに?ちょっとわかんない」 「ちょっとじゃなくて、だいぶとわかんないよね」 去年の暮れに台湾から来たらしいので、日本語の出来としては、これでも上々の方だろう。 「じゃぁ、とにかく滷肉飯定食で、これでお腹一杯になる?」 「えっ? いっぱい? ならない、ならない、全然ならないよ」 「じゃぁ、どうすんの?」 「これ」 「あぁ、肉饅ね、これはわかるわ」 滷肉飯定食と肉饅を注文した。 滷肉飯は、醤油で甘辛く煮た豚肉がのった台湾の丼物だったと記憶している。 どちらかというとしっかりとした味を想像していたが、供された滷肉飯は驚くほど薄味だ。 口に運んだ瞬間にはただ薄いと感じた味が、段々と薬膳風の複雑な味へと変化していく。 … 続きを読む

Category :