月別アーカイブ: March 2013

百八十三話 “ foot the coacher ” 反骨の靴

“ Christian Louboutin ” という今時な靴ブランドがある。 なかでも、“ Studs ” だらけのスリッポン “ Roller Boy ” は大人気らしい。 そして、意味なく靴底が赤いのが特徴なんだそうだ。 ⎡あっ、靴底が赤〜い⎦ ⎡これって、ひょっとしてクリスチャン・ルブちゃん?⎦ ⎡キャァ〜、ワタシ大好きなんだぁ〜⎦ ⎡そうなのぉ? ちょっと可愛かったから、たまたま買っちゃただけなんだけどね⎦ そうじゃねぇだろうがよ!!! あんたは、どっかのチャラい販売員に言われたはずだ。 ⎡御客様、これ巷では “ モテ靴 ” って言われてまして、それはもう効果絶大ですよ⎦ ⎡マジでぇ〜、じゃぁ、ちょっと値も張るけど貰っとこうかなぁ⎦ このチャラい販売員の言ったことも、金の使い道としても、それなりに間違ってはいない。 だが、その精神は腐っている。 服飾における “ Studs ” は、反骨と不服従の精神を象徴する装飾である。 一九七〇年代中頃 に始まった “ Punk Movement … 続きを読む

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百八十二話 真夜中の図書館

⎡日曜日の夜更けに何処へ行くか?⎦ 滅多とないが、日曜日に東京で一泊となると困るときがある。 なんせ馴染みの店屋は、ほとんどが休みで飯を喰うにもちょっと飲むにも行き場を失う。 まぁ、東京中の店屋がみんな休みという訳ではないので、我を通さなければ済む話なんだけど。 そんな、かる〜く難民的状況に陥った時に救われる一軒。 場所は、西麻布。 外苑西通りと六本木通りが交差する辺りには、妖しげな店屋が点々と在る。 “ 夜の西麻布 ” 大人びた灯がともる“ BAR ” で荒井由美的な一夜を過ごす。 一九八〇年代中頃、馬鹿と阿呆が手を繫いで騒いでいたあの時代。 もう一度泡にまみれてみて〜ぇ。 こんなことを人前で言うようになったら、もう立派な昭和のオッサンですが。 西麻布には、今でも他所の盛り場にはないスノッブな時代の残り香が漂う。 “ Library Bar THESE ” はそんな界隈に在る。 二階建ての一軒屋に白壁の隙間をくぐって入ると薄闇の空間が広がる。 目を凝らす。 吹抜けの壁には、一三〇〇〇冊を越える蔵書がビッシリと収められてあるのに驚かされる。 真夜中の図書館で一杯という奇妙な趣向も馴れてくると妙に落着く。 僕は、図書館風というか、書斎風というか、とにかくこの雰囲気が好きだ。 杯を置いて退散する頃には、少し頭が良くなったような気分にもなる。 名門 BAR 特有の張りつめた感もない。 時間を忘れるような、ゆったりとしてくつろいだ場が用意されている。 酒に関しては、適当に好みを伝えれば納得のいく一杯を薦めてくれて。 気取って厄介な注文をしたければ、それはそれで丁重な仕事で応えてくれもする。 店屋としての空気感は緩いが、食にも飲みにも手抜きは微塵もない。 食と言えば、この BAR で供されるカレーはよく知られていて、それ目当ての客もいるらしい。 … 続きを読む

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百八十一話 Authentic Shoe & Co. の財布

こうやって、財布がどうのこうのと能書を垂れていますが。 僕は、人生の大半を財布無しで過ごしてきました。 その報いなのか貧乏です。 貧しいから財布を持たなかったのか、財布を持たなかったから貧しいのか。 まぁ、どっちにしても今更な話なのだが。 四十歳を過ぎた頃嫁に言われた。 ⎡あんたねぇ⎦ ⎡いい歳してお札をクリップで挟んで、小銭をズボンのポケットでジャラジャラさせるの止めればぁ⎦ ⎡小学生じゃないんだから⎦ ⎡俺の知合いの外人みんなそうしてるよ⎦ ⎡あんたの知合いの外人って、あの “ UKオバカ軍団 ” の事でしょ⎦ ⎡あんな風になったら、もうお終いだよ⎦ う〜ん、確かにお終いかもしれない。 少なくとも、あぁなりたいと夢に描く人間像にはほど遠い連中だ。 その恐怖から、齡四十歳にして遂に “ Wallet Début ” となりました。 色々と試してみたものの中々しっくりくるモノに出逢えなかった。 四個か五個か買替えたような気がする。 今は、後藤惠一郎さんにお創りいただいた長財布を愛用している。 気に入っていて、細部を改良して “ KUJIRA ” の名称で Musée du Dragon ” でも販売する事にした。 財布を持つようになってから知った事なんだけど。 財布には、習慣に基づく道具であるという事情から人それぞれに様々な好みがある。 長財布しか持たないとか、二つ折りの財布しか嫌だとか。 … 続きを読む

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百八十話 東京に在る巴里

巴里の大衆食文化を体感できる店屋がある。 この手の商売では草分的存在なので御存知の方も多いと思う。 “ AUX BACCHANALES ” 一九九五年に原宿の一等地で開業したのだが、その店は二〇〇三年に閉じた。 元々の店は無くなったが、その後、銀座や赤坂や品川に店を増やしていった。 今では、四〜五店舗あるんじゃないかなぁ。 それでも、俗に云うチェーン店みたいな統一された感じはなくそれぞれが異なる。 僕は、品川の店によく行く。 宿から近い事もあって、朝飯だったり、誰かと一緒じゃなく晩飯を簡単に済ませたい時など助かる。 店の形態は、Café と Brasserie と Boulangerie が一緒になったような感じだ。 要は、喫茶店と居酒屋とパン屋が一軒にまとまって営まれていると解してもらえばよい。 味・内装・食器・品書き・給仕・BGM等全てが巴里と同じだ。 巴里風ではなく、巴里そのものである。 それも日常のごくありふれた巴里が、“ AUX BACCHANALES ” にはある。 給仕人にも仏人がおり、訪れる客にも在京仏人が多い。 巴里は不思議な街である。 塵々していて、乱雑で、住人も、生活習慣もなにかと難解で、お世辞にもとっつき易い街ではない。 それでも長く付合うと時折だが無性にその街の空気を吸いたくなる。 家の近所にいるパン屋のオヤジも修業時代を巴里で過ごした。 やはり巴里禁断症状が発症することがあるらしい。 そんな時、新幹線に乗って訪れるのが “ AUX BACCHANALES ” なんだそうだ。 それ以上でも、それ以下でもない、普段着の巴里が東京にある。 ひとつ注文があるとしたら、Boulangerie … 続きを読む

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百七十九話 CLIMAX !! mastermind JAPAN

一月程前、mastermind JAPAN の本間正章君に会った。 ⎡ねぇ、蔭山さん十七日って暇ぁ?⎦ ⎡いつの十七日?⎦ ⎡三月十七日なんだけどぉ⎦ ⎡あんた何言ってんの?⎦ ⎡三月十七日って、mastermind JAPAN 第二弾の発売日の翌日じゃん⎦ ⎡御来店戴く顧客様にお礼も申上げなきゃなんないし、暇な訳ねぇじゃん⎦ ⎡わかってるけど、東京でショーするから来ないかなと思って⎦ ⎡え〜、あんたブランド休止すんのにショーするって何考えてんの?⎦ ⎡前日に買って戴いた服を着て来られて、ランウェーと客席とが同じ衣装ってちょっとないでしょ⎦ ⎡っていうか、その発想からして、すでにショーの意味合いを完全に逸脱してるよねぇ⎦ もう誰も、この業界に於ける天才的戦略家を止めることはできない。 しょうがない。 ここまで来たら、本間正章という男の掌で踊ってみるのも一興かもしれない。 十五年間ずっとそうだったような気もするけど。 ⎡うん、わかった、行かせてもらうよ⎦ ⎡だけど俺、mastermind JAPAN の服持ってないよ⎦ ⎡誰のせいとは言わないけど、顧客様を差置いて自分が買えるような状況にないから⎦ ⎡それより、本間君疲れた顔してるけど大丈夫?⎦ ⎡さすがに限界かもって感じですよ⎦ ⎡いやいや、それって自分で自分の首締めてるだけだから⎦ mastermind JAPAN は、限界を越えて、常識も越えて、いろんなものを越えて今の場所にある。 そして、兎にも角にも面白い景色を見せてくれた。 それだけは間違いないと思う。 ⎡ところで本間君、疲れてんの承知でちょっと頼みがあるんだけど⎦ ⎡えぇ、マジっすかぁ?このタイミングでぇ〜?⎦ ⎡ちょっと、考えさせてください⎦ ⎡ほんと悪いねぇ、よってたかって首締めるみたいで⎦ まぁ、今んとこどうなるかわかんないけど。 Musée du Dragon … 続きを読む

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百七十八話 七転び八起き

災厄の日から二年が経つ。 僕の知合いには、被災地東北の出身者やそこに住まう者はいない。 そのため報道から今を知るしか術がない。 もし報道が真実を伝えているんだとしたら、復興への道程は想像や覚悟以上に厳しそうだ。 それでも、くじけず、投出さず、四苦八苦の想いで懸命に糧を繫いでおられる。 僕自身もそうだけど、皆がよく口にする言葉がある。 “東北人気質” 地方それぞれに気質というのがあって 、 それは辛抱強く粘り強い性格が土着の気風として、この地にある事を意味している。 皆が口々に言うこのある種賛美にも似た言葉を、当の方々はどう受止めておられるのだろう。 ⎡あんた方は、生来我慢強いからきっと大丈夫だよねぇ?⎦ よくよく考えると無責任な言回しなのかもしれない。 真に受けて重荷に感じておられる方もいらっしゃるかもしれない。 想えば、中越地震の際には “越後人気質” なんて言っていた。 俺たちの時はどうだっただろう。 たしか “ 神戸っ子 ” だったかなぁ。 どんな時でも明るく笑顔でとか言われた。 ⎡こんな目に逢って笑ってられるかよ!⎦と内心思っていたような気がする。 一度や二度は、言われた相手に声を出して訴えたような気もする。 もちろん皆悪気があって口にしている訳ではない。 頑張る姿を讃え、励まそうと言ってるんだろうけれど。 なんか東北人には特別な力の源泉があって、それを根拠に大丈夫って言うならちょっと違うと思う。 東北人も、越後人も、関西人も、未曾有の難儀を跳ね返す特別な才を持合わせているわけではない。 人智を越えた災厄の前では、一介の日本人にすぎない。 だとしたら、ただの日本人同士ちょっとづつ頑張ってなんとかするしかないんじゃないかなぁ。 会津地方に古来より伝わる “ 起き上がり小法師 ” という郷土玩具がある。 何度倒れても起上がるという “七転び八起き” の精神を今に伝えていると聞く。 … 続きを読む

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百七十七話 なにかがおかしい “ doublet ”

寒い寒いと思っていたら、遂に春がやって来た。 こうやって陽気に包まれると不思議と欲しくなるものがある。 鞄なんだけど。 それも、仕事鞄みたいな色気のないやつじゃなくてもっとファンキーなのが欲しい。 で、それを下げて、どっか旅にでる。 実際には、そんな暇は無いので行かないけど。 気分だけでも味わいたい。 そんな訳で、そんな鞄をひとつ御紹介させていただきます。 オレンジ色の部分は、革で原皮の端をそのまま活かして底に据えている。 なので、一頭一頭の違いが一点一点の違いに繋がる。 ちょっと生っぽい話で恐縮ですがそうなっています。 本体の帆布も妙だ。 ボーダーが妙に途中で歪んでいる。 先染めでもなく、プリントでもなく、抜染でもなさそうである。 デザイナーの井野将之君に訊く。 ⎡これ、どうやったの?⎦ ⎡実は、ブラスト加工なんですよ⎦ ⎡ブラスト加工って?デニムに施すあのブラストの事?⎦ ⎡そうです⎦ ⎡マジっすか?⎦ 帆布は太番手の綿糸を力織機で平組織に織る。 太い糸は芯まで染料が浸透しないので、表面を削ると白く残った芯の部分が顔を出す。 デニムの場合は綾織りだが、穿きこむと摩擦により表面が擦れて同じ現象が起こる。 強制的にこういった中古感を演出するために用いられる手法が、ブラスト加工である。 ちょっと面倒な加工で、加工賃もそれなりに高い。 そんな手法を、たかがと言っては失礼だがボーダー柄を表現するためだけに用いるとは。 この井野君もかなり変っている。 一点一点異なる表情をもつトート・バック。 写真のオレンジの他にイエローもあって、色合いも良い。 春の陽気に誘われてこんな鞄を手にするのも一興かもしれない。 それにしても、“ doublet ” というブランドなにかがおかしい。

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百七十六話 美魔女

服屋だからといって、服の事をなんでも解ってるかというとそうでもない。 三十年以上この業界にいるけど、 ずっとメンズ服を手掛けてきてレディース服の経験はほとんど無い。 それでも、メンズ目線の婦人服が良いと言われる有難い方もおられる。 なので、Musée du Dragon でも細々とレディース服を展開している。 でも根本的にはわかっていないので、ちょっと注目されると未熟さが露呈してしまう。 ⎡あのぉ〜、ちょっとお伺いしたいんですけど宜しいでしょうか?⎦ ⎡STORYに載っているレース・ブラウスってお取り扱いされてますか?⎦ STORYって何? レース・ブラウスってどれ? ⎡すいません、ちょっと担当の者と代わらせて戴きます⎦ ほんとはレディース担当なんて何処にもいないんだけど。 恥はかきたくないので女性スタッフに丸投げする。 ⎡ …………………はい、はい、サイズの方はそれでよろしいかと存じます⎦ おっ、なんだかんだ言ってもやっぱり女だなぁ。 話通じてるじゃん。 ご注文有り難うございますとか言ってるし。 ⎡何んだって?⎦ ⎡Intimate Diary のブラウスを通販してもらえないかって⎦ ⎡ふ〜ん、で、STORYって何?⎦ ⎡知らん⎦ ⎡えぇ〜、知らねぇのかよ、女だろ?⎦ ⎡女でも知らないものは知りません⎦ ⎡なに居直ってんだよ、調べろよぉ!⎦ そもそも調べてから扱えって話なんだろうけど、面目ない次第です。 STORYというのは光文社が発行している雑誌で、 新しい四十代女性のためのファッション&ライフスタイル誌なんだそうだ。 わかったような、わからないような、微妙な謳い文句である。 そうこうしていると、次々に同様の内容で問合せが相次ぐ。 口調から察するに皆さん大人の落着かれた女性らしい。 サイズの件もあって身長をお訊きすると、一七〇センチ前後の方々が多い。 モデル体型? ひょっとして美魔女? 妙に妄想が膨らむ。 … 続きを読む

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