月別アーカイブ: January 2014

二百六十話 懲りませんから。

皆様のお力添えを持ちまして、先シーズンの商いも、総じてうまく事が運びました。 ただひとつの問題を除いては。 ダウン・ウェアです。 どうにもこうにも、頑張ってはみたけれど、残念な結末に。 反省しております。 なので、この春、新たな発想を駆使したダウン・ウェアを投入いたします。 凝りませんから。 冬でも苦戦したダウン・ウェアを、春にって? 頭悪ぅ〜。 しかも、かなり奇天烈で、際どい企画です。 まず、上質のブロード生地でシャツを仕立てる。 そのシャツと同じ生地を用いてダウン・ベストを創る。 で、シャツの上に、ダウン・ベストを羽織るという筋書きなんだけど。 もちろん、シャツだけでも、ダウン・ベストだけでも、着用して戴ける。 というか、そもそもは、そういう着方が常識的なんだろう。 そこを、なんとか、無理矢理にでも重ねてもらいたい。 今、パジャマのような服を提案しているデザイナーも多い。 中には、みたいなというより、パジャマそのもので、これ寝間着だろっていう服も見られる。 ちょっと極端過ぎて、自身で着ようとは思わないが。 ストレスからの解放を、服創りに反映させたいという心理は、理解出来なくもない。 中身はちっとも強くないけど、黒く男らしい服を着てればなんとかなる的な時代が続いた反動かも。 このシャツは、かたちこそドレス・シャツだが、襟にも、カフスにも、芯地は敢えて省かれている。 その点に於いて、パジャマ的と言えるかもしれない。 着心地でも、シャツ、ベストとも、この上なく滑らかな肌触りで、限りなく軽く仕上っている。 ほんとうに上質な紳士パジャマが欲しければ、高級シャツ屋に行って仕立てろ。 そんな欧州の貴族的な考えにも通じるくらいの気分にさせてくれる。 今回用いられた生地は、Thomas Mason 社から供給されている。 今では、伊 ALBINI 社の傘下となったが、 十九世紀産業革命以降、ずっと英国王室御用達を冠してきた織布屋である。 もちろん、あの品の良い艶としなやかさは健在です。 仕込まれたダウンの量も適度に薄く抑えられていて、意外とこれからの季節使えるかもしれない。 まずは、自分で試そうかと思ってます。 Numero Uno、発想は妙だが、マジな一着です。

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二百五十九話 ふとく愛して、みじか〜く愛して。

すいません、表現が古くて。 なんせ歳が、歳なもんで。 一九八〇年、巨匠市川崑監督が演出した、サントリー・レッドのCM。 ⎡すこし愛して、なが〜く愛して⎦ 大原麗子さんの甘くかすれた声は、ガキからジジィまで、全ての男の耳にこびりついた。 家に帰ると、こんな声で嫁が出迎えてくれるという夫婦生活を想い描いた時代があった。 もし、今、この台詞を嫁から聞いたら、全身が凍りつくだろう。 で、今回の話になんか関係があるかというと、な〜んも関係ありません。 ただ、太くて、短いパンツを紹介したかっただけ。 実のところ、僕は、このパンツの売行きをかなり気にしている。 これからの シルエットを、占う意味に於いて興味深い。 だから、ちょっとした数量を投入して様子を窺ってみようかと思う。 この稼業だけじゃないのだろうけど、どんなにネット情報が普及しても叶わないこともある。 潮目の変わり時には、身銭をきって占わないと一文にもならない。 どこまでも太く、丈は短い Army Pants なんだけど。 ボトムでは、当代随一の腕を誇る 08 SIRCUS デザイナー 森下公則氏の仕事です。 最新のファッションを追っかけるっていうのも、あんまりカッコ良いとは思わないけど。 たまには、洒落で試されるのも一興かと。 ちょっと、御意見お訊かせください。

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二百五十八話 至福の港街食堂 後編

前編からの続きで、明石の飯屋での話です。 神戸を西に行くと、駅毎に港がある。 此処明石も、この辺りでは比較的大きい港として知られている。 漁港はもちろん、フェリーの船着き場など、ちょっとした港湾設備が整った良港である。 “魚の棚” の名称で親しまれている商店街があって、ご覧のような海の幸が並ぶ。 この辺りで暮らすと、大阪なんぞの百貨店やスーパーで魚を買うのが馬鹿馬鹿しくなる。 鮮度、価格、種類でも雲泥の格差を実感してしまうから。 魚貝だけではない、牛肉なんかもそうだ。 丹波、三田、淡路などの銘柄牛も、そこらの普通の肉屋で、普通の値段で売っている。 いちいち、なんとか牛とか言わないし、訊いても、⎡神戸牛や!⎦ で終わり。 この食材に恵まれた環境を求めて、腕の立つ若い料理人がやって来て、飯屋を開く。 伊料理屋 “ CHIRO ” も、そんな一軒である。 前回お話した面倒な注文の内容を、ちょっと披露させて戴こうと思う。 まずは、前菜。 殻付きの牡蠣は、“ CHIRO ” 自慢のピザ釜とオーブンで軽く火を通す。 明石港の名産である穴子は、蒸した後にマリネに。 マリネには、同じく名産の蛸や烏賊に加えて、パプリカを添えて貰う。 少し肉気も欲しいので、牛腎臓パテを盛ったブルスケッタ。 Bruschetta は、軽く焼いたパンに大蒜を擦りつけ具を載せた伊中部のおつまみである。 そして、“ CHIRO ” の名が、知られるようになったピザ。 半分を、マルゲリータに生ハム。 もう半分は、モッツァレラとリコッタ二種類のチーズをラグー・ソースで。 絶品だが、驚いたのは、次に出されたパスタ。 これだけは、注文時に味がどんなものなのか描けなかった。 蜜柑、檸檬、柚で、風味付けした太刀魚のペペロンチーノ。 なんじゃこれ〜。 柑橘系の風味なんて生優しいものではない強烈な香りが口一杯に広がる。 … 続きを読む

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二百五十七話 至福の港町食堂 前編

世間では、松の内も終り、正月飾りを外す頃、ようやく忌明けとなる。 満中陰の法要を終えて、ご住職に。 ⎡色々とお世話になりました、じゃぁ、俺帰るわ、仕事もあるし⎦ ⎡さよか、まぁ、頑張り、ほな、来週火曜日に寺で待っとうさかいなぁ⎦ ⎡えっ、来週?寺に?まだ、なんかやんの?⎦ ⎡こらぁ!おやっさんの祥月命日やないかぁ!どういうつもりなんやぁ!⎦ ⎡ Oh~ My God ! Jesus Christ ! ⎦ 母の事ばっかり気にしてたら、相方の方を忘れてた。 ⎡なにブツブツ言うとんのや!忘れたら承知せんぞぉ!⎦ ⎡OK〜、酒買って昼過ぎにくるから⎦ ⎡おぅ、そうしたり、後で頂戴するから、儂が、日本酒党やて知っとってやなぁ⎦ ここ最近、誰の顔より、この老導師の顔を見てる時間が一番長いかもしれない。 こうなったら、どっかで旨いもんでもたらふく喰ってから参ってやることにしよう。 海辺の家から菩提寺のある明石までは、車で一〇分程度。 関東にまで名を轟かす伊料理の名店 “ CHIRO ” は、その明石に在る。 港に面して建つ古いビルの二階にある小さな食堂である。 天候、曜日、時間に関係なく、予約は、超絶取りにくい。 此処での昼定食は、予め定まった料理から選ぶのではない。 その日の食材を提示してもらい、客と店で調理法を相談しながら料理を決めていく。 前菜も、主菜も、パスタだろうが、ピザだろうが、全てをそうしてくれる。 ピザの、半分を肉に、半分を魚貝にというのもアリなのだ。 この日も、港で上がった魚を、まるごと大皿に盛ってやってきた。 鱸、太刀魚、カレイ、黒鯛、舌平目、チヌ、ロブスター等が、ど〜んと目の前に置かれる。 これが、今日の食材で、どれを選び、どんな料理にするのかは、これからである。 ⎡さぁ、今日はどうしましょうか?⎦ 僕は、なんとなく頭に、落語の “ 三題噺 … 続きを読む

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二百五十六話 Black Watch

Musée du Dragon が、“ Galaabend ” に依頼したという前回の話についての問合せで。 ⎡あの写真に映ってるパンツって、黒無地ですか?⎦ いいえ、違います。 一応書いておいたけど、Black Watch です。 どんな Black Watch ですか?とまた尋ねられても困るので、写真を載せておきます。 “ 黒い見張り番 ” という意味の格子柄綾織物。 Scotland 高地地方出身者から成る独立歩兵中隊六隊の別名に由来する。 一七〇〇年代初頭に、編成されたらしい。 以来、勇猛果敢な戦歴と見事な揃いの軍装束は、派兵先の各国で知られるようになる。 この英国伝統の織布に、伸縮機能を付加して、細身のトラウザーに仕立てる。 腿から裾にかけて細くなっていくテーパード・シルェット。 裾は、あらかじめ五センチ巾を返して仕上げてある。 見所は、ただひとつ、その端麗なラインのみ。 一切無駄がなくて、ストイックな風情が漂う一本です。 まことに潔い。 ブランドは、“ Galaabend ”。 デザイナーは、大川原 美樹。 美樹ちゃん? Musée du Dragon では珍しく女性デザイナーです。 … 続きを読む

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二百五十五話 初仕事

“ galaabend ” 八年前か、九年前か、それくらい前だった思う。 いきなりShop に、取扱ってくれと、コレクションを携えてやって来た。 こういった事は、別に珍しくもない。 わざわざ来てくれたからといって、じゃぁ、やりましょうというほど甘くもないけど。 一番の問題は、サイズ感だった。 とにかく細身に仕立られている。 Musée du Dragon には、四十歳から五十歳半ばの方々が多い。 皆さん、それなりの対策を練られているのだろうけど、それでもやはり付くところには付く。 そういう歳頃なのだから、しょうがない。 だからといって、 単純に大きく仕立てれば、魅力は半減してしまう。 この難題を解決せぬまま、それでも捨て難い世界観を持ったこのブランドを、細々と続けてきた。 昨年の夏あたりから、その “ galaabend ”  が妙な雲行きになってくる。 何処で訊かれたのか、問合せが相次ぐ。 なんせ、細々と展開していたもんだから、在庫がすぐ底を付き、取寄せて対応しても間に合わない。 挙句、追加生産を依頼する。 どうなってんの? ミュージシャンや、俳優に多くの顧客を持ち、映画の衣装も手掛けているので、 そのせいかとも思ったが、尋ねてみるとそうでもないらしい。 そうこうしていると、体型的に無理だと諦めていた顧客さんまでもが。 ⎡俺も、こんなのが着てみたい⎦ ⎡マジですかぁ?でも、無理ですよ、入んないからぁ⎦ ⎡やめてね、そういうのに興味持つの⎦ ⎡面倒臭いから⎦ ⎡なんとかしろよ!それが、テメェの仕事だろうがよ!⎦ まさかの “ galaabend ” … 続きを読む

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二百五十四話 傘餅って何?

今年は、正月行事の一切を控えなければならない。 となると、年末年始が暇かと言うと、これが意外と忙しい。 初七日に始まり、七日ごとに回忌があって、海辺の家に、ご住職がやって来られる。 大晦日も、六・七日にあたり、朝一番でやって来られる。 庭や家を掃除して、迎えなければならない。 嫁は嫁で、毎日お膳を整え、枕団子を供えなければならず、なにかと忙しそうである。 父の時にも、同じようにやったはずなのだが。 仏事を取仕切っていた母が逝ったので、訊く訳にもいかない。 加えて、十年以上も前の話なので、どうも要領を得ない。 インターネットで調べれば良いだろうと思いきや。 その土地によって、その菩提寺によって、様子が微妙に異なっていて、いまいち当てにならない。 例えば、枕団子。 一説では、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上の六道に由来して六個と定められているらしい。 しかし、父母の菩提寺では違う。 一日一個の割で、七日分を一週ごとに供えるので七個なのだという。 そして、決して重ねてはならない。 明石藩家老を奉る菩提寺で、里見八犬伝由来の供養塔や、宮本武蔵作の庭が残る古刹だけに、 独特の決まり事も多い。 また、難儀な事に、このご住職、“ 鬼の知念和尚 ” と畏れられる曹洞宗の高僧なのである。 普段は、気の良い爺様で、仲良くしているのだが、仏事となると容赦無い。 亡くなった日の夜明けに駆けつけて、枕経を上げ終えると同時に、嫁に向かって命じた。 ⎡団子忘れたらあかんでぇ!いますぐ用意してや!⎦ ⎡えっ?いま?この状況で?こんな時に?⎦ ⎡こんな時にせんと、いつするつもりなんや!⎦ 可哀想に、泣き腫らした目をサングラスで隠して、白玉粉を買いに市場へと出かける羽目に。 そうこうしながら、四十九日が経ち、満中陰を迎える。 世間は、まだ松の内にある。 その間、ご住職は、出来の悪い檀家に、あれこれ指南しながら、ぴったりと寄添ってくれている。 ⎡満中陰には、ここに在るもん全部持って、お寺においで⎦ ⎡えっ?家じゃなくて、お寺で?⎦ ⎡そうや、本堂で、ちゃんと法要してな、その方がええやろ?⎦ ⎡なぁ、そないしてあげよ⎦ ⎡お花も、寺で用意して待ってるからな⎦ ⎡なんやったら、お膳も用意するから、ゆっくりしていったらえぇ⎦ ⎡ただしや!傘餅忘れたらあかんでぇ!⎦ えぇ〜、マジでぇ〜、団子の次は、餅かよぉ〜。 この傘餅というのが曲者である。 … 続きを読む

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二百五十三話 オ・ト・モ・ダ・チ 

私事により、年始のご挨拶を欠礼させていただきますが、 皆様にとってこの年が、良い一年となりますように願っております。 そして、Musée du Dragon を、この馬鹿 blog も併せて、 今年一年引続きご愛顧下さいますようお願い申し上げます。 それでは、始めさせていただきます。 二〇一三年の暮には、寂しい想いをしたので、新しい友達をつくることにした。 PGGR 君です。 とても 、いけない友達で、とても、ブラックな友達なのだ。 なにが、いけなくて、 なにが、ブラックなのかを、説明できないくらいヤバい奴。 後姿だけでは判らないので、正面を描いた絵もお見せしよう。 どこかで見かけたような体型、どこかで見かけたような面、どこかで見かけたような髪型。 なにかが余計で、なにかが足りない。 さすがに、これ以上は書けない。 産みの親は、OVER THE STRIPES のデザイナー大嶺保氏。 そんでもって、この度。 MUSÉE DU DRAGON の “ ANARKING ” と OVER THE STRIPES の “ PGGR … 続きを読む

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