五百四十四話 肉愛に溢れた肉屋

「ちょっといいとこに連れてってあげようか」
昼、嫁に連れられて神戸の北野町までやってきた。
「なんていう店?」
「ニク」
「えっ?肉?」
「そう、ニクっていう肉屋さん」

“ NICK KOBE ” Meet Shop

「なるほど、ニクじゃなくてニックね」
「違う!肉のニックだから」
「どっちでもいいわ!なんのこだわりだよ!」
山手通に面したその店屋は、なかなか洒落ていて、とても精肉を営んでいるようには見えない。
Café 的な構えで、入口脇の看板には一言。
“ NICE TO MEAT ”
MEAT と MEET、肉 と NICK、なんとしても肉屋とは言わずに肉屋だと言いたいらしい。
しかし、ただの小洒落た駄洒落好きの精肉店でないのは、一歩店に入るとすぐわかる。

硝子の陳列棚には、見事に精肉された肉の塊が並んでいる。

神戸牛・神戸 Pork ・但馬玄・長崎芳寿豚などが、ずら〜っと。
「なんか此処すげぇなぁ」
「いやいやそれほどでも、まぁ、NICK だからね」
「何者だよ?あんた」
壁際に数席卓が並んでいて、その場で食べることもできる。
肉を選んで、好みの部位を、好きな加減で焼いてもらうという注文も受けてくれるらしいが。
昼時だったので、定食にした。
但馬玄・芳寿豚・神戸 Pork Sausage などが、ひとつのさらに盛られてくる。
切口は赤く、表面は香ばしく、なによりしっかりとした噛みごたえが良い。
当然のことだけれど、肉は火を通せば硬くなる。
ゆっくりと弱火でというのが理想だろうが、時間がかかる。
店内は満席、持ち帰りの客も、どこの部位をどう切り分けてくれとか口々に注文している。
精肉工房も厨房も大忙しだろう。
そうしたなかでも、手抜きはない。
皿にあるどれもが、丁寧で旨く、自家製のマスタード、厳選された塩にまで気を配っている。
おいしい 肉とは何か?
そんな 素朴な疑問に、誠実に丁寧にこの肉屋は応えてくれている。
店主の錦昭光さんはじめスタッフは、みんな若く洒落ていて。
そして、好きなんだろうなぁ。
肉が。
肉好きの店主が肉屋を営み、肉好きの客が集う。

此処は、肉愛に溢れた肉屋です。

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