五百五話 竹ヶ原敏之介が創る靴

付合いが長くなると。
逢っていなくても、創った作品を見れば、そのひとが好調かそうでないかおおよそ解る。
暮れに、一足の靴が届いた。
Climbing Boots なんだけど。
甲を覆うように、白い毛皮が装着されている。
この毛皮? ひょっとしてアザラシ?
あいもかわらず 、懲りないおとこだ。
たんなる流行りなんだから、何もそこまでしなくてもいいだろう。
という実利の良識は、このおとこにはない!
そもそも、靴の甲を毛皮で覆うことが格好良いとも考えていないはずだ。
否定と嫌悪を完璧なかたちにして、ひとりで悦に浸っている。
そうしたほとんど誰にも理解されない変態行為に耽った挙句が。

この Climbing Boots だ!
靴本体の製法、素材の Oiled Leather はもちろん。
底部の Vibram 社製 Tweety Sole 、かしめられた特注金具、靴紐に至るまで。
安価な妥協は一切見受けられない。
古典的な佇まいに先鋭の意匠を纏う靴だが。
騙されてはいけない。
これは、センスの良いデザイナーが創る流行を取入れたお洒落な靴とは、まったく違う。
屈折して歪んだ精神から産まれた反逆の靴だ。
そして、僕は、竹ヶ原敏之介君が創るこうした PUNK な靴を今でもずっと愛している。

ところで、調子良さそうだね?

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