五百六話 Trattoria の頂へ

昔、仕事仲間の伊人と伊料理を食いながら伊料理の話になった。
「伊料理 は、何処で食うのが一番旨いか?」
肉なら Toscana 州 Firenze ? 魚介なら Napoli ?  Palermo ?
村ごとに食材も調理形態も異なる伊料理だから、一概にこの地方とかこの街とかは言えないだろう。
一般論であったとしても、その答えは難しい。
そう考えていたのだが、当の伊人の答は意外だった。
「一番が New York で、二番が Tokyo か? いや逆で、一番は Tokyo かも」
「マジでかぁ?」
「Si ! 」
その東京の伊料理屋 が、あの店屋だけには敵わないと評する名店が在る。
それも、明石に。

TRATTORIA PIZZERIA CiRO

海辺の家から一〇分程度という目と鼻のところに在る。
しかし、目と鼻だからいつでも食えるという訳にはいかない。
五度予約して一度ありつければ良い方で、二週間前から受付けるという予約も数分で決着する。
一年前の移転後、店が大きくなって改善されると期待していたのだが見事に裏切られた。
CIRO の噂を聞きつけた友人や親戚から連れていけと言われるのだが、そうは簡単にいかないのだ。
Chef 小谷聡一郎氏とPizzaiolo の紀三子さんが始められたちいさな伊料理店は、今や伝説の域にある。
二〇〇〇年当時、Associazione Verace Pizza Napoletana が認めた外国人職人はふたりしかいない。
New York にひとり、もうひとりが奥様の小谷紀三子さんだった。
日本人初、女性の Pizzaiolo というだけでも十分に伝説だろう。
また、御主人の小谷聡一郎氏も Napoli では知られた料理人だったらしい。
そうした最強のふたりが営む CIRO の味は、旨いを超えて凄い。
幾度通っても、その都度驚かされる一皿が供される。
先日もそうだった。
牡蠣と白隠元豆のショート・パスタ。
牡蠣の旨味が、絡むというよりパスタに練りこまれたような 味わいで。
白隠元豆の食感によってさらに引立つ。
もう何がどうなっているのか、わからないくらいに旨い。
奥様が焼く Pizza は、もちろんだが。
Antipasto、Primo Piatto、Secondo Piatto、Dolce に至るまで、客を引きつけて離さない。
店内は、幼児も年寄りもあらゆる年齢層の客で賑わう。
その誰もが、幸せそうに卓を囲んで過ごしている。
Trattoria とは、大衆食堂。
その Trattoria の頂に CIRO はある。
店先の魚河岸で昼網の競りが始まる正午前。
頂への扉も開く。
そして、その日水揚げされた魚が、ピザ窯でグリルして供される。

ここは、Napoli か?

 

 

 

 

 

 

 

 

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