四百七十話 アリか?ナシか?

 

本屋で、雑誌をペラペラめくっていた。
どこが頭なんだか尻尾なんだかさっぱりわからない服ばっかりで。
わざわざ買うまでもないと頁を閉じかけた時、妙なコートが目につく。
うん?
なんだこれ?
今時、こんなのを創る奴もいるんだぁ。
誰?
歳はとりたくないもので、このところ小さなクレジットの文字がよく見えない。
doublet ?
えっ?doublet ?
この Mods Parka って、井野君が創ったのかぁ。
doublet デザイナーの井野将之君で、二〇一三年にデビューした頃からの付合いだ。
なので、実際の服は見てなくても大体の想像はつく。
コート全面に施されたワッペンについては。
当然、着心地にも気を配るだろうから。
ジャガード織機を用いて、こういった一枚の布として表現したんじゃないかと思う。
いくら紋紙が電子化されているとはいえ、手間の懸かる手法だろう。
でも、デザイナーとして井野君が表現したかったものが最短距離で伝わってくる。
Mods Parka という主題は、世代によってその解釈が異なる。
一九五一年に、米国陸軍に採用された野戦パーカー。
その軍制品が、英国の若者に支持されるようになったのは一九六〇年代初頭のことである。
彼等は、Mods と呼ばれ自立した文化を育む。
以来、Mods Parka は、音楽・文学などのサブ・カルチャーと密接に関わっていく。
一九六〇年代の R&B から七〇年代の PUNK へと変わりゆくなかで。
Mods Parka も歩調を合わせるように、原型を留めながらも少しづつ変化していった。
そうして、一九八〇年代には、スケートボード・カルチャーと交わる。
当時、このような Mods Parka が実際にあったという記憶は僕にはない。
だけど、板の裏面には、このような Thrash Metal 的なグラフィックが描かれていたような気がする。
時代を投影しながらも、懐古に埋もれず、最新の技術を操り尖った服として今に表現している。
井野将之というデザイナーの本質は、そこにあるのではないかと思う。
さて、実際に買うか?となった時、この服は、アリか?ナシか?
ひとによっては、悩むところだろう。

しかし、そんな迷いも想起させない服が市場を占めるなか、この一着は稀有の存在かもしれない。

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