百八十四話 大福餅

三月も終わろうかという土曜日。
スタッフの女子は、花見に出かけて誰もいない。
嫁とふたりでしんねりと店の番をしていた。
⎡誰も来ねぇじゃん⎦
⎡今日と明日は、皆さん花見で家族サービスじゃないのぉ⎦
⎡ふ〜ん、やっぱり花見って行くんだぁ⎦
⎡私達も、あさってにでも “ 庭の桜 ” 見に帰ろうか?⎦
⎡別にどっちでもいいけど⎦
暇なのでふてくされて過ごしていると。
三時をまわった頃、宇治の方が明石の方と連立ってお越しになられた。
⎡これ、みんなで食べて⎦
大きな紙包みを差出された。
⎡マジっすか?これ何ですか?⎦
⎡シュークリームと苺大福だよ、結構旨いよ⎦
そこへ、いつもの顧客様と東京の御客様が来られる。
テーブルに一杯のシュークリームと苺大福を広げて、戴くことにする。
⎡この抹茶味のシュークリーム美味しいねぇ⎦
⎡さすが、お茶処 “ 宇治 ” ですなぁ⎦
⎡なかなか、このシュー生地も上品だよねぇ⎦
⎡それに、この苺大福マジ旨い⎦
もう服屋の体は完全に消失している。
立派な甘味処だ。
そうこうしていると、近所に住む顧客様も輪に入られて。
⎡僕、何が好きって大福が一番の好物なんだよね⎦
⎡服屋で、こんな大福に出逢えるなんて⎦
⎡この苺の酸味との塩梅は絶妙ですよ⎦
⎡そうでしょ、よろしかったらどんどん召上がってください⎦
って、全くの戴きものなんだけど。
晩方の御客様にも。
⎡パンツで、なんか良いのあったら貰おうかなと思って来たんだけど⎦
⎡パンツなんかいいじゃないですか 、それより大福如何ですか?⎦
⎡えっ?あんた何言ってんのぉ?⎦
⎡俺、大福喰いに来たわけじゃ………………………。⎦
⎡いいから、いいから、まぁどうぞ⎦
そんな訳で、老舗甘味処 “ Musée du Dragon ” は無事閉店まで賑わいました。
ほんとに、ご馳走さまでした。
感謝です。
翌日、花見で休んでいたスタッフに訊かれた。
⎡昨日、おふたりでちゃんとやってたんですか?⎦
⎡何だよぉ、朝っぱらからいいがかりつけんのかぁ?⎦
⎡いや、別にそういう訳じゃないけど⎦
⎡今朝、掃除しようと思ったら、お菓子の包み紙とか床に粉みたいなのが散らばってたから⎦
⎡テメェが、片付けりゃ済むだろうがよ!いちいち細けぇこと知らねぇよ!⎦

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