百八十三話 “ foot the coacher ” 反骨の靴

“ Christian Louboutin ” という今時な靴ブランドがある。
なかでも、“ Studs ” だらけのスリッポン “ Roller Boy ” は大人気らしい。
そして、意味なく靴底が赤いのが特徴なんだそうだ。
⎡あっ、靴底が赤〜い⎦
⎡これって、ひょっとしてクリスチャン・ルブちゃん?⎦
⎡キャァ〜、ワタシ大好きなんだぁ〜⎦
⎡そうなのぉ? ちょっと可愛かったから、たまたま買っちゃただけなんだけどね⎦
そうじゃねぇだろうがよ!!!
あんたは、どっかのチャラい販売員に言われたはずだ。
⎡御客様、これ巷では “ モテ靴 ” って言われてまして、それはもう効果絶大ですよ⎦
⎡マジでぇ〜、じゃぁ、ちょっと値も張るけど貰っとこうかなぁ⎦
このチャラい販売員の言ったことも、金の使い道としても、それなりに間違ってはいない。
だが、その精神は腐っている。
服飾における “ Studs ” は、反骨と不服従の精神を象徴する装飾である。
一九七〇年代中頃 に始まった “ Punk Movement ”
音楽・芸術・文学・映画・服飾などあらゆる文化領域を越えて世界中を席巻する。
サブ・カルチャーであるにせよ、これほど服飾が濃密に社会との関連性をあらわにした時はない。
安全ピンやカミソリ等の日用品を宝飾の代わりにあしらった姿は、初期の “ PUNKS ” に見られた。
“ Studs ” は、初期の “ PUNKS ” ではなくもう少し後だったように思う。
一九八〇年代に再熱した “ Hardcore Punk ” あたりで登場したんじゃないかなぁ。
バンド名が “ Sex Pistols ” のなんかの曲に由来する “ Discharge ” とか。
まぁ、このての事情は嫁に訊いた方が確かだけど。
いづれにしても “ Studs ” は、ヒストリカルなアイコンのひとつに数えられるべき代物なのである。
気安くナンパの道具にされたんでは堪ったものではない。
十六年前、英国より修行を終えて帰国したひとりの靴職人を紹介された。
革ジャンにチェック柄のスリム・パンツ、足元には “ L V ” の鞄を解体して仕立てたという靴を履く。
反骨の靴職人、竹ヶ原敏之介だった。
その時の靴が、今回原型として用いられている “ HARDER ” である。
そしてこの靴、名を “ HARDER L ✕ B ✕ T ✕ N ” という。

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