六百八十一話 玄太です!

L’évo での滞在を終えて、旅最後の目的だった硝子工房へ。
富山市は、世界でも有数の硝子の街である。
市内には、多くの作家が工房を構え、その創作活動を行政が手厚く支援している。
国内外の個展でその名を知られる “ GENTA GLASS ”工房もそのひとつだ。
L’évo と同じ南砺市だが、車で五〇分ほど離れた山裾までいく。
数日前に伺うと伝えてあったので、玄関先で出迎えていただいた。
鈴木玄太ご夫妻とお弟子さんおひとりのちいさな工房。
建屋は北欧風で、周りを広く田圃に囲まれた長閑な眺めの仕事場だ。
Sweden  Kosta 村に在る硝子学校で吹き硝子の基本技術を学ばれたらしい。
昔訪れた Gothenburg での噺や偶然共通の知人がいたこともあってすぐ親しくなる。
子供がそのまま大きくなったような無邪気な作家で、ご夫婦ともによく喋られ気さくだ。
しかし、硝子作家として鈴木玄太氏の経歴と実績は凄い。
Switzerland Verrerie de Nonfoux 硝子工房、Sweden he Aister Glass Studio 。
独 The Lauscha Glass Factory、Sweden Baskemolla Glass Studio 。
New Zealand Hoglund Art Glass 果ては、伊 Murano 島 Linera Vetro まで。
世界中の工房で、数々の名工に師事し卓越した腕を磨く。
一九九九年帰国後 二〇〇三年この地で “ GENTA GLASS ”工房を構えられた。
そして現在、氏の作風作品は、工芸硝子界で広く知られている。
工房に併設された Gallery の棚の下段奥、量感のある作品に目がとまった。
「これ、手にとっても良いですか?」
「良いですけど、それ昔の作品だし、ちょっと僅かに泡入ってるし、どうかなぁ」
「いや、これ良いよ、ぽってりとして、きっちりしてない緩い感じが良いわぁ」
「う〜ん、でもなんか、今となってはそれどうかなぁ」
「どうかなぁ、どうかなぁって、そもそもこれ幾ら?」
「えっ?いや、売りもんじゃぁないし、埃りかぶってるから、幾らって言われても」
「これって、売りもんじゃないの?ここに置いてあるのに?」
「そう言われればそうなんだけど、これ、今創れっていわれても出来ないやつだから」
「それに、ちょっと思い出もあるやつだから」
「まぁ、だいたいが作品ってそういうもんだよねぇ、で、これ幾ら?」
玄太先生ぶつぶつ言いながら、作品の埃を払って磨きだした。
「あっ!だめ!掃除したら!値段があがるからそのままにしておいて」
「でも、こんなの何に使うつもり?金魚鉢にでもするの?」
「そうするかもしれないし、しないかもしれない、で、これ幾ら?」
そんな不毛のやりとりの末、奥様も交えて値が決まりめでたく我が手に。
玄太先生から注文があった。
「これを、もう一度見たくなったらお邪魔して見せて貰えるということで良いですか?」
「もちろん、いつ何時でも歓迎しますよ」
口を切込み、折紙のように曲げた硝子器。
重い作品のため五人がかりで、一番太い吹き竿を操って創ったのだそうだ。
Stainless 製の吹き竿を持たせてもらったが、想像以上に重く片手では挙げられない。
息を合わせて巧みに操れるようになるまでに、どれほどの修練を要するのだろうか?
師の技の一端を披露してもらった。

一一五〇度に保たれた溶解炉から取り出す。

まるで飴細工のように自在に成形していく。

「ほらほら撮って、撮って、産まれたての Penguin !」
写真撮るのは良いけど、一番はしゃいでるのアンタやん。
玄太先生の創作は、子供が遊んでいるようにしか見えない。
それでも、この硝子の Penguin なんともふっくらしていて愛らしい。
魔法のような硝子工房 “ GENTA GLASS ” 。
眉間に皺を寄せ苦悩する作家の手からは、産まれないであろうおおらかな作品たち。
途方もない修練の先にある無手の境地とは、こんな様をいうのかもしれない。
作品は、後日送っていただくことにして工房を後にする。
ご夫妻とお弟子さんに見送られ金沢へ。

色々と無理を申し上げましたが、今後ともよろしく!次回は、個展でお逢いしましょう。

 

 

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