六百七十二話 晴れ舞台

一〇月十一日朝。
瑞丘八幡神社へ宮入り。

昼には、獅子舞が鳥居前で奉納される。

憑いた邪気を祓い、福を招く神事として、獅子が子供の頭に神憑く。

泣き叫ぶ子供をあとにして、布団太鼓は、主祭神である海神社への宮入りに向け再び巡行を始める。
主祭神だけあって、海神社は、海上鎮護の海大神が祀られる大社だ。
日暮刻、境内には夜店が立並び、駅から南にはひとが押し寄せ始め、国道二号線も交通規制対象に。
すべてが、祭り優先となる。

海神社に宮入りした四基の布団太鼓が、お祓い後、祭り最大の見せ場となる練り合せに向け出発。
馬場先と呼ばれる浜の大鳥居を一気に駆け抜ける。

地区別に色を違えた祭装束を纏った担ぎ手。
布団太鼓の魅力と迫力には、この担ぎ手衆の推進力が欠かせない。
全速で走る、曲る、止まる、そして担ぎ天に向かって差し上げる。
祭りの三日間、気力と体力が続く限りこれを繰り返す。

そして、漁港前の広場に各地区の布団太鼓四基が勢揃い。
海辺の家が在る地区西垂水、東垂水、東高丸、塩谷。

祭は、四基での練り合せで Climax へと。
各地区の担ぎ手が、差し方唄を合図に布団太鼓を天に向かって差上げ競う。
刻が経ち夜が更けても、差し方唄が街中にこだまする。
近代化された港街に蘇る古来からの神事、海を畏れ敬い鎮護を神に願う。
眼前の海峡は、日本国最大の難所とされる海域だからこそかもしれない。

祭りの主役は、地区青年会の若いおとこ連中だ。
では、浜のおんな達はというと。
各地区で仕立てたお揃いの Tーシャツに身を固め、おとこ連中を見守る。
もう、犬まで祭装束に。
彼氏、夫、父親、推しのおとこなど、目当てはそれぞれだが熱量は半端ない。
「いやぁー、やっぱうちの旦那がいちばんやわ!めっちゃイケてるやん!」
「霞むわぁー、他のひとら」
などと、何の Evidence もない戯言を人前で平気で口にしたりする。
また、推しのおとこが、自分とは別の地区だったりすると。
「なんかさぁ、西のあのひと真っ黒やんねぇ、EXILE みたいやわぁ」
「ほら、バリ格好良くない?」
いやいや、EXILE は Artist で、たしか所属は LDH のはずなんだが 。
あのひと、漁師で、肌が黒いのは職業焼けで、加えて所属は垂水漁業協同組合ですけど。

まぁ、年に一度の晴れ舞台だから。

 

 

 

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