
一〇月十一日朝。
瑞丘八幡神社へ宮入り。

昼には、獅子舞が鳥居前で奉納される。

憑いた邪気を祓い、福を招く神事として、獅子が子供の頭に神憑く。

泣き叫ぶ子供をあとにして、布団太鼓は、主祭神である海神社への宮入りに向け再び巡行を始める。
主祭神だけあって、海神社は、海上鎮護の海大神が祀られる大社だ。
日暮刻、境内には夜店が立並び、駅から南にはひとが押し寄せ始め、国道二号線も交通規制対象に。
すべてが、祭り優先となる。

海神社に宮入りした四基の布団太鼓が、お祓い後、祭り最大の見せ場となる練り合せに向け出発。
馬場先と呼ばれる浜の大鳥居を一気に駆け抜ける。

地区別に色を違えた祭装束を纏った担ぎ手。
布団太鼓の魅力と迫力には、この担ぎ手衆の推進力が欠かせない。
全速で走る、曲る、止まる、そして担ぎ天に向かって差し上げる。
祭りの三日間、気力と体力が続く限りこれを繰り返す。

そして、漁港前の広場に各地区の布団太鼓四基が勢揃い。
海辺の家が在る地区西垂水、東垂水、東高丸、塩谷。

祭は、四基での練り合せで Climax へと。
各地区の担ぎ手が、差し方唄を合図に布団太鼓を天に向かって差上げ競う。
刻が経ち夜が更けても、差し方唄が街中にこだまする。
近代化された港街に蘇る古来からの神事、海を畏れ敬い鎮護を神に願う。
眼前の海峡は、日本国最大の難所とされる海域だからこそかもしれない。

祭りの主役は、地区青年会の若いおとこ連中だ。
では、浜のおんな達はというと。
各地区で仕立てたお揃いの Tーシャツに身を固め、おとこ連中を見守る。
もう、犬まで祭装束に。
彼氏、夫、父親、推しのおとこなど、目当てはそれぞれだが熱量は半端ない。
「いやぁー、やっぱうちの旦那がいちばんやわ!めっちゃイケてるやん!」
「霞むわぁー、他のひとら」
などと、何の Evidence もない戯言を人前で平気で口にしたりする。
また、推しのおとこが、自分とは別の地区だったりすると。
「なんかさぁ、西のあのひと真っ黒やんねぇ、EXILE みたいやわぁ」
「ほら、バリ格好良くない?」
いやいや、EXILE は Artist で、たしか所属は LDH のはずなんだが 。
あのひと、漁師で、肌が黒いのは職業焼けで、加えて所属は垂水漁業協同組合ですけど。
まぁ、年に一度の晴れ舞台だから。


