
最近気に入って通いだした焼鶏屋。
巷に隠れ家的な店屋が増えてきてはいるものの、ここまで隠れている店屋も珍しい。
旧いビルの隙間に両肩が壁にあたるほど狭い階段があって三階まで登っていく。
登った先には鉄製の扉があって、脇にちいさく英字で屋号が描かれている。
目指したのは、Mafia の隠れ家らしい。
鉄扉を開けても、いわゆる焼鶏屋の煤けた感じはまったくしない。
何方かと言えば、薄暗く妖しげな BAR に近い。
窓からは、旧居留地の灯りが差し込む。
一見の客が、どうやってもたどり着けない焼鶏屋。
それが、“ TIMELESS ” 。
店主をはじめ皆若く、勢いがある。
東門街あたりで、婆さんがひとり焼いている乾涸びた焼鶏屋とは大違いだ。
まぁ、それはそれで味があって良い風情だが、とても同じ商いとは思えない。
さて、肝心の焼鶏はどうなのか?
はっきり言って、ここの焼鶏はどの串も抜群に旨い。
ちょっと手前で焼きを寸止めし、あとは余熱で加減する。
一本一本の串に施される手間と塩梅が、地鶏の旨さを引きだす。
焼き台と囲炉裏を仕切る増永君の技は、半端ないと想う。
またその手前の鶏肉を捌き、串を打つ仕込みからして相当の気を配っているのだろう。
上品な味わいだが、地鶏の脂はしっとりと甘く口に残る。
そして、これ!
平飼い卵の黄身が添えられた甘ダレのつくね。
黄身をまぶして食べる。
さらに、食べ終えた皿を回収し、一口分の白飯を盛って返す。
つくねの脂と甘ダレと黄身が白飯に絡んだ “ 卵かけご飯 ” 。
こういうのは、やめなさい!中毒になるわぁ!マジでやばい!
これを喰いたければまた来てね的な一皿で、しかも一口だけという嫌味な演出。
つくづくタチの悪い飯屋だと想う。
地鶏の刺身に始まって〆の Risotto まで申し分無く続くのだが、やはりこの一皿は格別だ。
最初に訪れた際、店主の増永君に。
「どんなに旨くったって、俺も歳だからこの階段上がれなくなったらもう来れないからね」
「大丈夫ですよ、電話ください、僕らで担ぎ上げますから」
「それって、もう飯屋じゃなくて施設やろ?」
「あっ、それ良いかも、焼鶏施設やろうかな」
こいつ、只者じゃないな。


