六百四話 カーリマン?

この海辺の街で暮らしていると、時々不思議なひとに出逢う。
週末に浜で “ KOBE FARMERS MARKET ” が開催されると市報にあったので覗いて見ることにした。
地産地消を推進する狙いで催されるらしいが、行ってみるとこれがなかなかに面白い。
農家が野菜を売り、漁師が魚を売るだけでなく、いろんな連中が参加していて。
地元の料理屋、豆腐屋、天麩羅屋、パン屋、珈琲焙煎所、クラフトビール醸造家などの屋台もある。
土地柄、台湾女性が供する台湾家庭料理までと多彩な顔ぶれである。
なかには、知っている顔もあって LOCAL MARKET 感満載だが、その盛況さに驚く。
国道から港までの道が、渋滞するくらいだからたいしたものだ。
屋台で買った料理を浜辺に腰を下ろして海を眺めながら食う。
さて、どの屋台の何を選ぶか?
有機野菜咖喱、海苔雑炊、台北点心といろいろとあるのだが。
Gibier Stand?
Gibier って、野鳥、野獣のあの Gibier だろうか?

洒落た品書きだが、味の想像がまったくつかない。
四色丼 とあるけど、熊・猪・鹿で三色じゃないの?
振舞っているのは若い夫婦で、亭主の方に訊いてみる。
「もう一色は、なに?」
「熊、猪、鹿に地場野菜を加えた四色です」
「熊、猪、鹿は、それぞれ味付けを変えた “そぼろ” にしてあって、美味しいですよ」
「へぇ〜、いまいちよくわかんないけど、ひとつちょうだい」

食ってみると、拍子抜けするくらいに野獣特有の臭みがない。
あっさりとはしているが、鶏のそぼろ丼よりもずっと味が深く旨い。
これ、意外といけるなぁ。
食い終えて、鉢を返しに屋台に戻る。
「ごちそうさま、旨かったわ、で、店はどこでやってんの?」
「ありがとうございます、ボクら店とかないんですよ」
「えっ?ご飯屋さんじゃないの?」
「僕、狩専門で、丹波の猟師なんです」
「マジでぇ!狩人なの? あぁ、それでカーリマンかぁ」

六〇年生きてきて、狩だけで生計を立てている猟師にはじめて出逢った。
猟師やマタギって、もっと爺の生業だと勝手に想像していたが、ナマ狩人ってこんな感じなんだぁ。
翌日。
庭の剪定にやってきた庭のジプシー橋口君に、このカーリマンの話をした。
すると、助っ人に来ていた後輩の庭師が。
「そのひと、母親の友達の息子さんかも」
「嘘だろ、丹波に住んでるって言ってたけど、ちょっと確認してみてよ」
昨日撮った画像を送ると、母親から返信があって、やはりカーリマンだった。
そして、その母親の友達であるカーリマン・ママは、海辺の家の裏手に住んでおられるという。
「いやぁ〜奇遇だわ、カーリマンに頼みたいことがあって、知合いになりたかったからよかった」
「うちの母親も、時々、届けてもらった鹿肉とかを Cafe で料理してますよ」
「母親の実家は、丹波の窯元なんで、そこで焼いた器に盛ったりして」
「僕も、庭師と陶芸家と二足の草鞋 ですから」
「なんか、いろいろと面白そうなコミュニティー だな」
庭のジプシーが言う。
「䕃山 さんみたいな不思議なひとには同じような変わったひとが寄ってくるんですよねぇ」
「なに他人事みたいに言っての、キミが一番の変人だろう」
狩人、庭師、陶芸家いろんな生業がある。
とことんこだわって、真面目に愚直に究めようとしている若い連中と出逢うと気分が良い。
先日、カーリマンからソーセージが届いた。
鹿肉一〇〇%、鹿肉九〇%豚肉一〇%、辛めのチョリソ、ハーブ入りの四種類。
食べ易くするために豚肉を混ぜるらしいが、やはり一〇〇%が絶品だと思う。

ひととひととの繋がりが、産地と食卓を繋ぐ。最高だわ!

 

 

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