毎週の木曜日に食材の宅配便が届くことになっている。
不在時は、専用箱に梱包されて玄関先に置かれる。
海辺の家から北摂の本宅に戻って来た嫁が、最初にやるのはこの箱の回収だ。
この日もそうだった。
「なにこれ!ありえんわぁ!」
目にした惨状は、これ。
「なんてことしてくれんのよ!誰!」
注文先の業者に報告するための 現場写真を撮りながら、嫁の怒りは MAX へ。
確かに、これは酷い。
あらゆるものを開封し、味見し、食えるものはすべて食ったというのがわかる。
写真では伝わらないが、その残骸は、玄関先に留まらず石段まで広がっている始末だ。
「これは、わたしへの挑戦だわ!許せない!絶対に許さないから!」
「いや、まぁ、お怒りはごもっともだけど、誰の仕業なのかわかんないから」
兎にも角にも、業者に事件概要を伝えることにする。
「ああぁ〜、それは鴉ですねぇ、厳重に梱包していたつもりなんですがねぇ」
「本日お届けした商品で、在庫のあるものは改めて明日お持ちするようにいたします」
今回は、不在を予定していたので、生ものの被害はなかったものの、鴉の好き嫌いは見て取れる。
ミートソースは大好き、コンソメも好き、無添加出汁の素はまぁまぁ好き、青汁は嫌い。
本日の献立では、大体そんなところだ。
翌日、再配達にやってきた業者の情報によると、最近こういった被害が急増しているらしい。
コロナ禍の緊急事態宣言による飲食店営業自粛要請で、残飯が街場から消えたことが原因だと言う。
ひとも鴉も同じコミュニティーに暮らせば、同じ事態に見舞われる。
外食出来ないのは、なにも人間だけではない。
そう想うと、腹の虫も幾分治るというものだ。
まぁ、死なない程度に食って暮らしていく他ないからね。
ひとも鴉も、生きろ。