五百二十七話 我楽多 

ご無沙汰です、このところちょっと忙しいもんで。

思ったより大変だわぁ。
七〇年近く経った家を改築するのは。
建築家の先生からも。
「新築された方が、費用的にも精神的にも楽にやれますよ」
「でも、改築の方向で進められるんですよね」
「うん」
「えっ? 聞こえない、そうなんですよね?」
「はい!そうです!」
とは、答えてはみたものの、具体的に話が進み始めると段々と不安になってくる。
世の中、七〇年も刻が経つと、ほとんどの事象が姿を変えてしまう。
建築もそうだ。
構造から建材まで、あらゆることが昔とは違う。
世間的には、七〇歳を過ぎた木造建築に価値などない。
ひと言で言ってしまえば、我楽多だ。
その我楽多を解体し、使えるものを拾い出し、修繕し、組立直す。
場合によっては、用途を違えてでも使う。
床材を壁面に、食器棚に嵌めらた硝子を扉にとかいった具合で。
その度に構造的に大丈夫か? 修繕は可能か? 面積的に足りるか?など。
いちいち検証していかなければならない。
家全体が、複雑なパズルのように思えてくる。
もちろん、どうしても足りないピースもあって。
例えば、いくつかのドアノブは使えるけど、必要な建具の数には全く足りない。
同じ年代の真鍮製のを購入すれば済むのだけれど、その販売先は?
そんな面倒が、床から壁から天井から建具へと続く。
こうしてお伝えすると、どんな文化財的に価値のある館なんだと想像されるかもしれない。
自信をもってお答えします。
“ 海辺の家 ” は、自他共に認める立派なただのボロ屋です。
建築家の大先生が言うには。
「まぁ、ねぇ、家の価値観は人それぞれだから」

って、アンタも腹中で、我楽多だと思ってんじゃねぇか!

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