五百話 一支國へ

長年身体の調子を診てもらっているおとこがいる。
ある日のこと。
その日も朝から具合が悪く施術を頼んだところ。
「蔭山さん、烏賊とサザエ食べますか?」
「あのなぁ、俺、調子悪いって言ったよねぇ、そもそもいつから料理屋に鞍替えしたんだよ!」
「いや、採れたてのを実家の親父が送ってきたもんだから」
親父さんの手前もあって食ってみた。
旨い!
瀬戸内のそれとも、日本海のそれとも、まるで違う味と歯応えに驚く。
箱にあったすべてを平らげてやった。
「あぁ、なんてことを、まだスタッフで一口も食べてないのもいるのに!」
このおとこの実家というのが壱岐で、烏賊とサザエはそこからやってきた。
こんな魚介がふつうに食える島って?
聞けば、それだけではく、牛、鳥、米、酒から、塩や醤油に至るまですべての食材が一級品らしい。
「俺、壱岐にいってくるわ」
「えぇっ!遠いですよ、もしほんとにいかれるんなら、叔父に飯屋の手配とか連絡しときますけど」
叔父さんは、大阪在住で壱岐の観光関連の役員をされている方らしい。
そんな心強いはなしもあって、とにかく壱岐へと向かうことにした。
お隣りの対馬とともに国境の島とされている壱岐。
島の歴史はとても長い。
この国の号が、日本と定められるはるか昔の古代より連なっている。
史書には、 倭国の島国である一支國との記述もあって。
日本古代史に於いては、珠玉の存在なのだという。
まぁ、あんまり興味ないけどそうなのだそうだ。

こっちは、食気に駆られてだけの旅だから。

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