四百五十六話 南無阿弥陀仏

毎年、この時期は忙しい。
施餓鬼に、盆供養にと、北摂の自宅と海辺の家を行ったり来たり。
その上、今年は父の一三回忌の法要が重なる。
もう逝ってから一二年も経つのかぁ。
なのに、その片割れはピンピンしている。
母親だ。
どうでも良いのだけど、よく喰い、よく喋り、よく寝る。
朝、菩提寺へと向かうため喪服を着て庭で黒靴を磨いていた。
その背中を眺めていた母親が嫁に小声で訊く。
「こちらの方どなた?」
「えぇっ!!!!」
「きたぁぁぁ〜!」
「おっ、おっ、おかあさん大丈夫?」
「誰って? マジでぇ? 怖ぇぇぇぇ!」
「これはさぁ、おかあさんが可愛いって言張ってやまない、ほんとはちっとも可愛くない息子だよ」
「えぇっ!!!!嘘ぉ? ほんとに?」
「あはははは、そうなの? 見慣れない服着てたから分かんなかったぁ」
「てっきり庭師のひとかもと思っちゃったわぁ」
「それに、あたまもなんかいつもよりちっちゃそうだったし」
って、笑って誤魔化すんじゃない!
遂に、背中とはいえ息子を忘れやがったなぁ!
たしかに、その日庭師はいたけど。
喪服で松の剪定する庭師なんかいねぇだろうがぁ!
だいたい、てめぇの息子は、日によってあたまがちっちゃくなったりするのかよ?
俺は、妖怪かぁ?
言訳すんなら、もうちっとましなのにしろよ!
お寺について、有難いお経を聞きながら手を合わせる。

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、親父、あんたの連合いのことなんだけどさぁ。
どうしたもんかなぁ?

 

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