毎年、この時期は忙しい。
施餓鬼に、盆供養にと、北摂の自宅と海辺の家を行ったり来たり。
その上、今年は父の一三回忌の法要が重なる。
もう逝ってから一二年も経つのかぁ。
なのに、その片割れはピンピンしている。
母親だ。
どうでも良いのだけど、よく喰い、よく喋り、よく寝る。
朝、菩提寺へと向かうため喪服を着て庭で黒靴を磨いていた。
その背中を眺めていた母親が嫁に小声で訊く。
「こちらの方どなた?」
「えぇっ!!!!」
「きたぁぁぁ〜!」
「おっ、おっ、おかあさん大丈夫?」
「誰って? マジでぇ? 怖ぇぇぇぇ!」
「これはさぁ、おかあさんが可愛いって言張ってやまない、ほんとはちっとも可愛くない息子だよ」
「えぇっ!!!!嘘ぉ? ほんとに?」
「あはははは、そうなの? 見慣れない服着てたから分かんなかったぁ」
「てっきり庭師のひとかもと思っちゃったわぁ」
「それに、あたまもなんかいつもよりちっちゃそうだったし」
って、笑って誤魔化すんじゃない!
遂に、背中とはいえ息子を忘れやがったなぁ!
たしかに、その日庭師はいたけど。
喪服で松の剪定する庭師なんかいねぇだろうがぁ!
だいたい、てめぇの息子は、日によってあたまがちっちゃくなったりするのかよ?
俺は、妖怪かぁ?
言訳すんなら、もうちっとましなのにしろよ!
お寺について、有難いお経を聞きながら手を合わせる。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、親父、あんたの連合いのことなんだけどさぁ。
どうしたもんかなぁ?