四百四十一話 幕末対決! 国芳 対 国貞

道玄坂に在る Bunkamura THE MUSIUM へ。
此処は、松濤の超高級住宅街と猥雑な風俗街とが背中合せにくっついているという妙な街だ。
僕にとっては、まことに縁起の悪い場所でもある。
鬼門だと言っても良い。
此処に来ると碌なことはない。
ちょうど Bunkamura を通り過ぎて一分ほどのところに ANSNAM のアトリエが在った。
あの中野靖の ANSNAM だ。
一月に店を閉じて、もうすっかり奴の存在など忘れ去っていたのだが。
さすがに、この辺りを歩けば思い出さずにはいられない。
あぁ、奴は今頃どうしてんだろう?
Musée du Dragon を閉じた同日に、此処松濤のアトリエも閉じたらしいけど。
いやいや、気にしてはいけない。
知ったことではない。
関わってはならない。
せっかくの展覧会が台無しになりかねない。
気を取り直して本題に入ろう。
方角は凶だったが、会自体は吉だった。

幕末の浮世絵両雄が渋谷で激突。
俺たちの国芳、わたしの国貞。

この表題は、なかなかに洒落ている。
幕末の江戸。
財政は緊縮抑制下にあり、質素倹約・風紀粛正が市中を暗く覆っていた。
天保の改革による謂われ無き糾弾に筆一本で対峙した歌川国芳は、江戸庶民の HERO だった。
抜群の筆さばき、奇想天外ともいえる着想、不屈の反骨精神は、まさに幕末の PUNKER だと思う。
一方、歌川国貞も国芳と同時期に画業を重ねた絵師である。
描きに描いたその数は、おそらく浮世絵史上最多で一万点は超えるといわれている。
数だけではなく、その質も圧倒的出来栄えで。
浮世絵を工芸美術の最高峰にまで至らしめた功績は疑いようもない。
当時、似顔の国貞、武者の国芳、名所の広重と評された。
役者絵、美人画、春画と、ひとを描けば当代随一。
それが、歌川国貞という絵師である。
幕末の江戸にもアイドルはいて、その存在を知らしめたのが浮世絵というグラビアだ。
国貞の当世流グラビアは、当たりに当たった。
その証が、一万点という膨大な作品数なのだと思う。
国芳と国貞、まったく相反する作風を残した兄弟弟子同士。
一五〇年の時空を超え、同じ江戸の渋谷で激突するという趣向だ。
豪快な武者絵か、妖艶な美人画か。
任侠を貫くか、情欲に溺れるか。

さて、あなたはどっち?

 

 

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