四百三十五話 天神橋へ

嫁が言う。
「ねぇ、あんたってさぁ、大阪生まれの大阪育ちよねぇ」
「ってことは」
「何気に神戸っ子のふりしてるけど、がっつり浪速っ子なんだぁ」
「へっ、へっ、気の毒に」
「そんな生粋の浪速っ子の割には、大阪のことなんにも知らないよねぇ」
「なんでそんな残念なことになってんの?」
まぁ、浪速っ子が残念か否かは別の筋合いとして、確かに大阪で生まれたし育った。
卒業してからの勤先も堂島だったし、その後継いだ会社も店も梅田に在る。
学生時代の一〇年間を神戸に通っていたというだけだ。
しかし、大阪への馴染みが薄いという点では嫁の言う通りなのかもしれない。
何故か?
多分、大阪という土地は僕にとって、働く場所であって遊び場ではなかったのだろう。
北新地の BAR や CLUB を徘徊してはいても。
それは仕事の延長であって気のおけない遊びではなかった。
もうそんな昭和の仕事文化も失われ、今ではなんの説得力もありはしないが実際にはそうだった。
単なる職場としての大阪しか知らない。
そう想うとちょっと寂しい気もする。
これを機会に、大阪の街場で、飲んだり、食ったり、買ったりしてみるのも一興かもしれない。
さて、どこから始めるか?
ちょうど梅の季節で、梅と言えば天満宮で、天満宮と言えば天神橋筋だろう。

そういう訳で、天神橋へ。

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