二百七十話 PUCHI PUCHI みたいな。

二百六十七話、二百六十八話と、極めつきの変態噺を終えた後なので、もう大丈夫と思いきや。
世の中に、困った人というのは、意外と多いのである。
新しく知合ったデザイナーがいる。
誤解のないように言っておきますが。
僕は、日々、変態を求めて過ごしているわけではない。
少しでもまともな人と知合えるよう、現状を打破しようと願っているし、努力もしているつもりだ。
なのに。
「このコート、色も新鮮だし、この丸々なんか良いねぇ」
「 有難うございます、これ、プチプチから発想したんです」
「プチプチって?あの緩衝材のこと?」
「えぇ、妙にあのプチプチの質感が気になって創ってみました」
マズイ!このイタイ空気感、異次元へと誘われるような危険な香。
巻き込まれてはいけない、関わってもいけない。
しかし、襟裏の仕様、袖口の切羽、裾に向かって緩やかに広がる絶妙のラインなど。
単なる思いつきで創られた服ではない。
素材・色・仕様・縫製どれをとっても練られていて、外観の奇抜さとは裏腹に隙がない。
試しに袖を通してみた。
恐ろしく軽く、可動域が広く、ふらつきもなく、据わりが良い。
「これ、あなたが創ったの?」
「はい、そうです」
「何者?」
デザイナーは、森川拓野君といって、ブランド名を “ Taakk ” という。
御客様には、デザイナーの経歴など、どうでもいい話ではあるが、我々にはそれなりに意味がある。
この森川君は、ISSEY MIYAKE で、Paris Collection の企画・デザインを担っていた。
その後、二〇一二年に独立し、森川デザイン事務所を設立。
“ Taakk ” を自身のブランドとしてスタートさせた。
また、三宅先生のところかぁ。
業界に長く居ると。
三宅一生という方が、この国の服飾界にどれほどの貢献をされてこられたかを思い知らされる。
今、日本人であることが、世界の服飾界に於いて、ひとつのステータスだといわれるに至った。
そうなれたのは、先生方の偉大な奮闘の成果であることは、紛れもない事実だろうと思う。
そして、輝かしい血統と技術は、確かなカタチで引継がれている。
森川拓野君も、そうしたひとりなのだろう。
店で、コートを羽織って遊んでいたら、顧客の方が来店されて、言われた。
「おっ、よく似合ってんじゃん 」
「 良いよ、それ、買っとけよ」
「えっ、俺がですかぁ?マジでぇ? 」
「ちょっと派手じゃないですか?」
「なに言ってんの、歳喰ってるからこそ良いんじゃん」
まさかの逆接客に遭って、スタッフに。

すいません、これください。

 

 

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