四百七十七話 日本の名機?

思い出したくもないけど。
昨年の暮。
島根で川にはまり、その時、手にしていたのが長年愛用のカメラ。
愛機 Leica は、そうして人里離れた山奥の川に散った。
その後、年が明けてひと月経ってもカメラがないという残念な状況を解消すべく店屋に向う。
愛機の亡骸をぶら下げて、カメラ屋の爺いに。
「これ、治せる?」
「お客さん、治せないの知ってて訊いてるよね?」
「じゃぁ、これ買取ってよ、新しいの買うから」
「治せないカメラ買取って、うちはどうすんの?」
「知らない」
「あんたさぁ、何が言いたいわけ?」
「こんな可哀想な目にあってんだから、買取ったつもりで安く新しいカメラ売ってぇ」
「で、何が欲しいの?」
「FUJIFILM X-Pro2」
「はぁ? Pro1じゃなくて Pro2を安くしろってぇ?発売したばかりの最新機種だよ」
「哀れなおとこが、こうやってうなだれて頼んでんだから」
「人助けだと思って、ここはひとつお願い」
弾いた電卓を向けながら。
「ったく、買取ったつもりでって言われてもなぁ、これでどう?」
「ありがたいとは思うけど、そこをもうちょっと」
「無理!」
連れない爺いだ、こんなにも傷ついた客から儲けようなんて。
こんな始末で、ようやく新しいカメラを手にした。
FUJIFILM X-Pro2
XーPro1の評判は、カメラマンのお客さんから散々聞かされていたので承知している。
まぁ、写真の腕は悪くはないから道具にはこだわらない方だけど。
デジタルでの撮影となると、カメラの光学性能はどうしても無視できない。
そこで、色々と迷い悩む。
フィルム撮影に馴染んだ世代には、その世代なりの屈折した訴えや求めがあって。
被写体を自分の眼で直接捉えたいという根源的な欲求とか。
フィルム時代の色や階調再現を取戻したいという郷愁的な欲求とか。
それらの欲求にどれだけ寄り添ってくれているかが、僕らにとっての名機の条件だろう。
富士フィルムは、長年のフィルム開発によって技術を培ってきた。
そのフィルム技術の結晶が、この FUJIFILM X-Pro2 だという言葉を信じて選んだ。
FUJIFILM X-Pro2 は、果たして日本の名機なのか?
答えは、撮って馴染んだ末にわかる。

あぁ、あの日、川に落ちて良かったと思える日は訪れるのか?

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