六百九十六話 酒盛り

長い付合いで、かつての仕事仲間だった男女ふたりから連絡があった。
東京からやって来て、淡路島を自転車で半周した帰りに “ 海辺の家 ” に立ち寄りたい。
最後に顔を合わせて以来もう一〇年以上経つ。
夕刻連れ立ってやって来た。
おとこは我々と同年齢で、おんなは全くそうは見えないけれどそれでも六〇歳は超えている。
おんなの方から。
「酒買っていこうか?」
「いや、いらない、業者並みに揃ってるから」
このやりとりで忘れていた記憶が甦ってきた。
このおんなが、数々の武勇伝を誇る酒豪だったことを。
しこたま飲んだ挙句、東京青山の道端で一夜を明かし、朝何食わぬ顔で出社して仕事をこなす。
稼業は生粋の Fashion 屋で、それにふさわしくそれなりの格好でやってのける。
これ以上にやばい噺も数々あるのだが言えない。
とにかく見た目からは想像できない怖さを孕んだ奴だ。
「なに飲む?」
「やっぱ Bier だろうな、Bier 頂戴!」
Viet Nam 産の 瓶 Bier を含め数本空けながら。
「じゃぁさぁ、あれからのわたしの人生語ってあげるわ、ちょっと長いけど聞いて」
空白となっていた一〇数年に於ける抱腹絶倒の人生がどんなもんだったかを告げられた。
とんでもなく奇天烈な内容なのでこれも言えない。
飯を食いながら Wine を立て続けに四本。
酒量もさることながら食うのも半端ない。
ひたすら食って飲んでが続く。
このままでは埒が明かないので、酒の度数を上げることにしよう。
南仏産栗と林檎の Liqueur  “ LE BIRLOU ” を投入。
過激に糖度が高い Liqueur でもものともしない。
こうなったら手持の酒で一番強い Grappa を試してみよう。
度数四〇度超えの伊販 Brandy だ。
「あっ、これ旨いじゃん、角がなくてまろやかな Grappa だわ、いい酒飲んでんだね」
このおんな、これだけ飲んでも酒の味がわかるのかぁ?
伊産葡萄酒の王様 “ BAROLO ” の搾り滓から創られる名酒 “ SIBONA ”
亡くなられた御主人が Alitalia 航空の方だったので、伊の食文化には詳しい。
さすがだなと感心しつつ彼女の手元を見ると瓶を揺すっている。
えっ?飲んじゃったの?
そして、六脚ある椅子を順繰りにまわり始めた。
彼女の習性上こうなりだしたらそろそろお開きだな。
「あたしさぁ、これ食ったら帰る」
「明日、奈良に移動して吉野山に登んなきゃだから」
冷めた Pizza を頬張りながらそう言う。
日付はとっくに変わっていた。
淡路島半周して、大酒食らって、翌日は吉野山。
やっぱりこいつはやばい。
帰りがけ見送る嫁に抱きついてきた。
「今日は、ありがとね、嬉しかったぁ!ほんとありがとね!」
嫁が。
「やばい、なんか泣きそう」
人生は複雑で儘ならないことも多くあって、あたりまえだが良いことばかりではない。
このふたりもそうだったんだと想う。
それでも、かつての戦友がこうして訪ねてきてくれた。
良い時間を過ごさせてもらった。

でも、もう帰って!そして、また来て!

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