五百五十七話 晩秋

海辺の庭。
今年の紅葉は、いつになく綺麗だった。
なんて、愛でる余裕はない。
業者並に塵袋を買って、それでも足りない量の爆弾落葉に見舞われる。
庭用の電動掃除機も悲鳴をあげ、駆動部分が熱くなって、時々ファンが限界に達して止まる。
騙し騙し使うのだけれど、だいたい二年ほどで御陀仏という始末だ。
桜に、藤に、紅葉に、百日紅に、木蓮に、雪柳に、紫陽花に、柿にと、切りがない。
実際には切りはあるのだが、気分的には切りがない。
庭師に頼むという手もあるにはある。
が、庭師の方も抱えている家すべてが同じ状況と化しているので、いつのことになるかわからない。
くわえて、其れなりのものを払ってということにもなる。
剪定、寒肥、防虫、雑草除去、掃除、石積修理など。
これら一連の仕事をすべてお任せすると、年の暮れに一枚の紙切れが届く。
そこには、庭手入れ一式とあって、あぁ、そうですか、とは言い難い数字がならんでいる。
先代の家主だった義母が元気でいた頃。
仕事の合間を縫って庭仕事を手伝いに訪れるとよく言っていた。
「あなた、今晩なに食べたい?」
「お寿司? 鰻? 中華? ステーキ? 仏蘭西料理? 」
「なんだって、どこだっていいわよ、わたしが奢るから、遠慮しないで好きなものを言って」
えらく気前がいいもんだと思って聞いていたが、今となってはよくわかる。

そりゃぁ、そうなるわな。

 

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