五百四十八話 贈り人

おとこが、おとこに、何かを贈るという行為ほど難儀なものはないと想う。
それが、売られているものではなく、贈り手が自ら創ったものとなるとなおさらに難しい。
自分の力量に加えて、相手の嗜好や、立場や、状況などを併せて考えなければならない。
しかも、同じような稼業の相手だと、もうこれはやめておいた方がいいだろう。
しかし、ごく稀に、これをサラッとやってのけるひとがいる。
先日、その方からご機嫌伺いの電話を頂戴した。
その際に、チラッとふたつのことを言ったような憶えがある。
はなしの本題から外れて、言ったことすら忘れる程度の内容だ。
ひとつは、最近携帯電話を iphon 11 PRO に買い換えたこと。
もうひとつは、かつて商品として創った鰐革の Coin Case を今でも愛用していること。

たった数十秒の間に交わしたこの情報から、これだけのモノを創造されたのではないか?
たぶんだが、そうだと想う。
この Coin Case と iphon Case は、外観がまったく異なるが、構造発想は極めて近い。
胴として二枚、襠に一枚、口に一枚と合計四枚の革で、かたちを成している。
それぞれを内側で縫合わせ、裏布は、胴の縁をぐるりと binding 処理で縫留めてある。
襠によって収納物の容量と出入れが適正に担保され、手の馴染みも良い。
なによりこのふっくらとした丸みを帯びた風情が好みだ。
角張った道具は融通が効かなそうで、性に合わない。
なので、角張って性に合わない iphon も、この Case に収めれば気分良く持ち歩けるだろう。
内側には、革製の Card Case とFastener Pocket も丁寧に設けられてある。
長年の習慣で、札は Money Clip に、小銭は Coin Case にとなっているので、これで充分だ。
歳を重ねると、道具は、簡素で豊かなモノを求めるべきだ。
だけど、質素で貧しいモノを SIMPLE などと偽って納得してはいけない。
この戒めを、大先輩であり数少ない友人である贈り人から、モノを通じて教えていただいた。

後藤惠一郎さん、ありがとうございました。感謝です。

 

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