五百三十八話 還暦!

誕生月は一月だから、正確にはまだ五九歳なのだが、いづれにしても爺には違いない。
そして、爺は、還暦という括りで祝ってもらえるらしい。
「あんた、自分ではどう思ってるか知らないけど、もう立派な爺ですよ」
「みんなの邪魔にならないように、社会の片隅でひっそりと息していてね」
と、こうは、面と向かって言えないので、“ 還暦 ” で祝うフリをして爺としての自覚を促す。
証として祝いの品的なモノまで定められていて、赤色の服飾品が一般的なのだそうだ。
所謂 RED CARD で、意味するところは退場勧告である。
念の入ったことで、ありがとうございます。
しかし、暦が還るというこの節目は、悪いことばかりではない。
数十年の間、顔を合わさなかった仲間と集う機会が一気に増える。
時代を遡って、懐かしい顔ぶれと出逢う。
社会的立場や生活状況や健康状態 や外見など、それぞれではあるけれど。
遭ってしまうと、そこになんの隔たりもなく楽しく刻を過ごせる。
なにより、昭和の連中はよく飲む。
五人六人も揃えば、酒の注文を受けるだけで中居さんが席に常駐する始末だ。
相手の顔が霞むくらい煙草を吹かし、切れ目なく酒を煽る。
身体のどこが悪いだの痛いだの、どこの医者の腕が良いだの悪いだのと愚痴りながら。
決して自分の生活態度には言及しない。
“ 反省 ” の二文字は、とっくに人生のどこかで捨て去った愛すべき爺達。
宴も二時間が過ぎれば、もはやなんの集りだったのか?すら頭に浮かばない。
こんな世代も我々が最後なのかもしれないと想う。
まさに昭和の残滓だ。
いろいろとご批判もございましょうが、それでも愛していただきたい。

REDCARD だけは、ご勘弁ください。

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