五百十八話 因果な稼業

梅雨前。
いまひとつなにを着て出歩いたら良いのか?よくわからない。
そう悩んでいるひとは多いだろう。
暑かったり肌寒かったりと、まったくもって定まらない。
服屋も、なにを創ってなにを売ったら良いのか?と右往左往するばかり。
自然には勝てないと諦めてしまえば、飯は食えない。
まぁ、いまとなっては他人事だけど、困った問題ではある。
The Crooked Tailor の中村冴希君とそんな話になった。
暑ければ脱ぐし、肌寒ければ着る。
このあたりまえの動作にうまく付合ってくれる服が欲しい。
難点は、着ている時より脱いだ時にある。
湿気の多いなか、手に持っても、鞄に突っ込んでも、皺は免れない。
だったら端から皺くちゃの服を仕立てりゃ良いんじゃないの?
まず、麻の生機で服を仕立てる。
その服を、手で揉みながら染める。
あとは、天日で乾かせばお終い。
手間のかかる厄介な工程を、いとも簡単に言えばこうなる。
そうやって、出来上がった服がこれ。
一九五〇年代、欧州の画家達が好んで着ていたというAtelier Coat 。
ゆったりとした膨らみのある仕上がりで、適度に枯れた色合いも良い。
この時期に羽織る服としては申し分ない気がする。
実際に好評でよく売れているらしい。
まずは、良かった。
良かったんだけれど、来季もこれという訳にはいかないのがこの稼業の辛いところで。
さて、どうしたものか?
仕立上がった秋冬のコレクションを眺めながら、一 年先の初夏を悩む。

つくづく因果な稼業だわ!

 

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