四百九十四話 もうひとりの座頭市 

六本木歌舞伎の第二弾、座頭市。
寺島しのぶさんって尾上菊五郎さんのお嬢さんだけど、歌舞伎の舞台に女優?
盲目の座頭市を演じられるのは市川海老蔵さんだとすると、あの眼力は?
映画 SCOOP! の薬中オヤジ、リリー・フランキーさんが歌舞伎の脚本?
その存在自体が R-15 指定、鬼才三池崇史監督が演出?
これで、ほんとうに良いの?
だけど、これほどの個性と才能を布陣させて挑んだ芝居となると是非観てみたい。
で、大阪公演の初日に観た。
歌舞伎にも通じていない、芝居にも通じていない。
そんな僕が観ても、とにかく面白い。
盲目の侠客座頭の市は、故勝新太郎さんが役者人生を賭けて演じ続けられた役柄だ。
以降、どなたが市を演じられても、どうしても大好きな勝さんの立居が浮かぶ。
そして、これが座頭市?という想いしかなかった。
逝かれてちょうど二〇年経ったこの舞台で、まったく異なる市の姿を観た。
坊主頭で、ひとの動きを超えた抜刀術で斬って舞う盲目の侠客。
見えるはずのものが見えず、見えないはずのものが見える。
朱の衣を羽織って洗練されてはいるけれど。
これは、もうひとりの座頭の市だ。
当代随一の歌舞伎役者って、こんなにも凄い者なのか。
芝居の最中、時々に演者が客を弄る。
幕間ですら、なにかと絡んできて飽きさせない。
歌舞伎役者とは、ひとを楽しませるあらゆる術を心得た玄人中の玄人だと想う。
あっという間の二時間半だった。
明日ご覧になられる方もおられるかもしれないから、詳しくは言わない。
ただ、寺島しのぶさん演じる薄霧太夫との濡場の一幕も必見ですよ。
三池崇史演出六本木歌舞伎、これは病みつきの芝居だ。

三池監督、煙草場では失礼いたしました。

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