四百十九話 巴里の女と倫敦の男

Jane Birkin と Serge Gainsbourg
倫敦の女と巴里の男というカップルは有名だけど。
その逆の巴里の女と倫敦の男というのはどうだろうか?
巴里の薔薇と讃えられる美貌の大女優 Catherine Deneuve と。
Sex Pistols を産んだ PUNK の父である Malcolm Mclaren と。
天才詐欺師の異名をもつ男の方は、二◯一◯年四月二二日に倫敦で逝った。
女は、今でも巴里左岸に暮らしている。
Catherine Deneuve と Malcolm Mclaren
僕は、この男女を心から敬愛してやまないのだが。
何を敬愛しているのかをここで語り始めると止まらなくなるのでやめておく。
一九九四年、Malcolm Mclaren によって一枚の名盤が世に送り出される。
盤には、奇跡的な一曲が収録された。
アルバム名は “ PARIS ” で、曲は “ Paris Paris ”
Malcolm Mclaren に促されるように Catherine Deneuve の官能的な声が溢れる。
泌尿器機能が低下したおっさんにはお漏らし寸前の衝撃です。
詞が絵葉書的だと男は気に入らなかったらしいが、女は頑として受け入れなかったという。
途中、英語でのふたりのやりとりがそのまま録音されている。
「Sing way Catherine!」
「Sing way ? No I can’t」
さらっと歌ってくれと男が注文し、出来ないと女が拒む。
何気ない収録時の会話が、また妙に艶っぽい。
こういう粋な細工が奇才 Malcolm Mclaren の真骨頂でもある。
曲は終盤 Deneuve のパートへと。
“ Métro の埃は綺麗にして ”
“ でも、掃除しすぎては駄目 ”
“ 巴里が魂を失ってしまうから ”
そんな巴里を誰よりも愛し、そんな巴里に誰よりも愛された Catherine Deneuve が歌う。
“ PARIS PARIS ”
巴里の女と倫敦の男が紡いだ最高の巴里賛歌なのだ。
一九九◯年早春、Saint-Sulpice 教会近くのちいさなビストロで仏雑誌編集者と飯を食っていた。
兎肉のパテを口に入れようとした時、幾つかの卓で皿にナイフやフォークを置く音が耳につく。
驚いて振向くと。
古い木製扉を開けて入ってきたのは Catherine Deneuve だった。
居合わせた幸運に浸るだけで、声をかける勇気もなかったけれど。

永遠の巴里と、無欠の美貌と、不滅の PUNK に乾杯!そして、Merry Christmas !

 

 

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