三百八十六話 DEER SKIN

生々しい写真で申訳けありません。
しかし、Musée du Dragon にとってとても大切な素材はこいつから産まれます。
Deer Skin です。
Deer Skin は不思議な皮革である。
しなやかで強く、動きに添って伸び、空気を通すというひとに心地良い性格を備えている。
繊維の結合具合によるものらしいが、詳しくは知らない。
もう一七年ほど前の話になるが。
雑誌編集者から鹿革製品を創っている職人集団がいると聞く。
Native American じゃあるまいし、個体によって調子が異なる鹿革なんかで製品化出来るものなのか?
当時そういったものはなかったように思うし、少なくとも僕は目にしたことはなかった。
埼玉県に在る工房に出向く。
そこで出逢った一着の Deer Skin Shirt が Musée du Dragon での革製品の始まりだった。
モノとの出逢いは、ひととの縁の始まりでもある。
工房を率いておられた後藤惠一郎さんとの付合いもそこからで、以来途切れることなく続いている。
妙な具合で、どうもこの方とは商売をする気がしない。
創ったものがヒットし結構儲かったりもするが、互いにそれを気にかけることもない。
儲かったんだからまた次を狙いましょうとはならない。
原価や売価などといった銭の話は三◯秒ほどで、一分を費やしたことはないんじゃないかなぁ。
そんなだから、定期的になにかを創るわけでもなく、この頃では ID 
すら付けない。
気儘で、いい加減で、褒められたはなしではないが。
おとなのおとこの遊びとしてはなかなかに面白く、やめられないでいる。
仕事では打算がついてまとっても、遊びとなると無垢である。
さらに、この歳になると若い頃と違って半端な遊びはしない。
真剣に夢中になれるものだけを創っていく。
おとこの持物には、まったく上等そうには見えないが、実はとんでもなく手の込んだものがあって。
そういったものを手にして弄りまわしていると、妙に気分が良かったりもする。
今、あるものにあたまを巡らせている。
頭陀袋だ。
欲を払う頭陀行に用いるものだから、徹底的に簡素な構造をしている。
おそらくものを運ぶ道具としては、これ以上簡素な造りのものはないだろう。
ある意味、デザインとは表現に於いて良く見せたいという欲なのかもしれない。
その欲を極限まで削ぐという点を頭陀に習いたいと思う。
最小限の仕事に最大限の技と手間を投じる。

そして、その素材には DEER SKIN をと考えている。

 

 

 


 

 

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