三百七十八話 もう一枚の SHIRT です。

三百七十七話で御紹介させて戴いたシャツのもう一枚違ったバージョンです。
型と仕様は同じですが、生地と色が異なります。
細番手の綿糸を dobby 織機で極薄に織りあげました。
色は白です。
シャツとして仕立てた後、手洗いによる軽い縮絨を施す。
この工程は、ANSNAM のアトリエで中野靖自らの手によって行うのだが。
意外とこれが難しいのだそうだ。
僕は、やったこともないし、やる気もないから、なにがどう難しいのかよくは知らない。
そう言うんだから、難しいことは難しいんだろう。
そして今回も、初回納品では縮率調整が甘く再加工となった。
「こっちの見込みも甘かったとは思うけど、もう一回加工を追込んでみてよ」
「 五分ごとに様子見ながらやってみますけど、結構手間なんですよ、これが」
「乾かす時間もありますし御店に納めたときちょっと濡れてるかもしれませんけど、良いですか?」
「それは駄目!」
一般の方々には、なんの話かさっぱりだろう。
もっとも、なんの話か解ったところで糞の役にも立たないことだけは間違いない。
こういった服創りに於いては。
工程が増えれば増えるほど比例して途中の障壁も増す。
糸からとなると、越えなければならない障壁も相当な数にのぼる。
そのひとつひとつを乗越えていかねばならないのだが。
それには、やはり経験を積むしかないのだと思う。
だが、年月を重ねようやく必要な経験が身についた頃には感覚が鈍ってくる。
振返れば。
経験と感覚が、ちょうど良い具合に拮抗しているといった時期は実に短いように思う。
想えば切ない話である。

まぁ、それでもこれくらいの仕事はまだ出来るけどね。

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