二十三話 The Bohemian Garden

人は、普通に生きてきても、何がしかの荷を背負うようになる。
私にしても、そうだ。
例えば、会社、店、土地、家屋、そして庭も。
自身のそれぞれへの想いは別にして、その実態価値はというと。
世間的にも、自分的にも、たいしたものではない。
其のどってことのないものに、縛られる。
大人げないが、本当に馬鹿馬鹿しいと思う時がある。
しかし、投げ出す勇気も、きっかけもない。
欧州を旅すると、gypsyと呼ばれる人達を見かける。
十五世紀の仏では、bohemianともいわれた。
起源はよく分からないらしいが、彼ら自身は、自らを“ roma ”と称している。
数年前、南仏のカマルグ地方の村で、ロマの祭りに出会った。
ロマは、その血統に由来する超絶な音楽才能を持つ。
男達が奏でるギターの音色、踊り狂う女達、闇の中に漂う郷愁。
不思議な体験だった。
以来、私は、bohemianに対して奇妙な憧れを抱くようになる。
さまざまな弾圧、強制、差別の歴史の果てに彼等の今がある。
だが、彼らは、完全にではないが、圧倒的に自由だ。
移動型民族なので家はない、当たり前だが庭もない。
そんなbohemianが、もし庭を望んだら。
馬車の荷台に庭を造り、異郷を旅する姿を想像してみた。

The Bohemian Garden

この世に存在しない“ 動く庭 ”。
そして、裾にフリルを施したロング・ドレスを着て、薔薇を口にくわえて踊る嫁?
えっ、ちょっと違うか。

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