四十四話 互いの気概

三十六話の “ 相場 ”で、銀の高騰について書いた。
その日の夜、顧客の方がやって来られた。
⎡あのブログに載ってたベルト、どうなりましたぁ?⎦
⎡まさかと思って来たんですけど、銀を真鍮に変えるとかいう話になってないでしょうな。⎦
⎡……………。⎦
そのつもりだった。
一言付け加えられた。
⎡代金払うのこっちやからねぇ。材料ケチるような真似せんといてよ。⎦
恐ろしい。
腹を読まれた上に、止めの殺し文句。
そして、翌日。
今度は、東京から電話を戴いた。
関西弁と関東弁、アクセントは違っても、言われた内容は同じ。
マズいことになった。
製作者の後藤恵一郎氏に、事情を伝える。
⎡有り難いですねぇ。そういう方々がおられるから職人でいられるんですよ。⎦
⎡しかし、蔭山さん。御客様の言葉に甘える訳にはいきませんねぇ。⎦
⎡こっちは、こっちで、何とかやらないと。⎦
⎡三割ほど値を下げましょう。⎦
⎡……………。⎦
⎡そういう事で。御客様に宜しくお伝え下さい。⎦
タンニンで鞣した上質のヌメ革を背に沿って一本断ちする。
糸を使わず、手で切り出した革紐で縫い上げる。
バックルは、純銀の無垢材を叩いて作る。
一切の機械は使わないで、革包丁一本で仕上げる。
しかも、御客様のサイズに合わせた完全オーダー・メイド。
価格は、四万七千円也。
という事になった。
御客様と職人、互いの気概から産まれた一品である。
結局のところ、腰が引けてたのは俺ひとりか。
情けない。

話は変わりますが、こんなブログを一体どこの誰が読むんだろうと思っていました。
なので、カウントを見て本当にびっくりしてます。
毎度毎度のふざけた話を、お読み戴きまして恐縮です。
また、どんな馬鹿が書いているのか見に来られる方もおられます。
先日の水曜日にも、帰りがけに⎡ブログを読んでいます。⎦とスタッフに伝えられた女性がおられた。
そうとは知らず、愛想悪くってすいません。
次回、お越しの際には、是非ご挨拶させて戴きたいと存じます。
今後とも、ご愛読のほど宜しくお願いいたします。
これからも、何の役にもなんない話が続きますけど。

カテゴリー:   パーマリンク