八十八話 ひょっとしたら

⎡これは、売れるよ⎦
⎡僕は買わして貰うけどねぇ⎦
⎡また儲かるんじゃないの?⎦
⎡いい加減な事言ってもらっちゃ困りますよ、またって、いつの?何の話?⎦
⎡いやぁ~、良いよこれ⎦
⎡マジですか?イケてる感じですか?⎦
⎡嬉しいなぁ、儲かっちゃいますかねぇ?⎦
⎡儲かる前提で、今晩がっつり糞高いフレンチでも喰っちゃおうかなぁ⎦
⎡そんなもん喰う前に、安く売る事考えてよ⎦
⎡嫌ですよ、喰ってからか、喰いながら考えますから⎦
全くの“ 獲らぬ狸の皮算用 ”である。
しかし、一円にもなっていない発売前でも、お客様から言われるとやっぱり嬉しい。
また、心強くもある。
それに、結構な数の方にお問い合わせを戴いた。
ブログのアクセス数もいつもより断然伸びている。
僕は見当違いの話を無責任にしただけなのに。
最短距離でここまでの仕上がりとなった。
やっぱり、鍛えられた職人の知恵と工夫には敵わない。
⎡どうしたら良いですかねぇ?⎦と薮から棒に訊いてくる馬鹿もいる。
モノのひとつも仕上げずに、白紙で⎡どうしたら?⎦もないもんだと思う。
⎡僕の人生これで大丈夫ですかねぇ?⎦の問いに等しい。
僕は、牧師でも、学者でもない、ただの服屋なんだから答えようがない。
創っては棄て、棄てては創り、繰返しの中から良品は産まれるのだと思うのだが。
向い風が吹く時代に、横着な仕事ぶりからは何も産まれない。
お客様に良いと言われても、それでもなお考える。
ロール・バックからクラッチ・バックへ。
クラッチ・バックからトート・バックへという発想はかたちになった。
だが、あと一歩何かやるべき事を見逃しているかもしれない。
製作者の後藤恵一郎さんから、逆の発想で創られた試作品が届く。
⎡しなやかなグローブ・レザーによって自在に姿を変える⎦から、
⎡剛健なヌメ革を白く塗り強制的に癖をつけて違う姿に変える⎦へ。
真逆の試み。
白い塗装は強制によってひび割れる。
美しく凶暴な感じが良い。
“ BEAUTY BEAST ”
真逆は、アウト・ポケットでも試みられている。
前回の試作とは逆側に据えられている。
折曲げた口を外向きで持つか、内向きで持つか、これだけでも風情は大きく変わる。
机上の計算からは決して産まれない姿。
無理矢理の力技でしょう?
それにしても、いやらしく、悪そうな鞄ですねぇ。

ひょっとしたら、創作中に何かエッチな事考えてんじゃないでしょうねぇ?

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