百五十一話 ANSNAM の魅力

なんでこうやって次から次へと面倒を起こすんだよ?
それでなくとも、俺はいま別の知恵の遅れた或糞馬鹿が起こした一件で始末に追われているんだから。
まぁ、こっちはあまりに次元が低過ぎて話もしたくないんだけどいづれ明らかにさせていただく。
そんな時にてめぇまで。
ほんとに。
ほんとに。
みんな死ねばいい。
この頃歳のせいか辛抱という二文字が身体から消えつつある。
それにしても ANSNAM の中野靖だ。
事の次第を俺の携帯にメールしましただとぉ?
俺は見ねぇよ、そんなもん。
俺にとって携帯電話は、言いたい時に言いたい事を言うためだけにある道具なんだから。
だから受信機能は付加されていない NTT 特別仕様なんだよ。
横着かましやがって、二度と送るんじゃねぇぞ。
そんな ANSNAM なんだけど。
先日、ある御客様が Musée du Dragon にやって来られた。
二度目のご来店なんだけど日本人なら皆が知る名家の生まれで洒落者だ。
二時間を過ぎ三時間近く何をお見せしても納得される様子が見受けられない。
そこで、 ANSNAM のロング・ジャケットが仕立上がっていたのを思い出した。
ミシンを使わず仕立職人が手縫いで仕上げた逸品だ。
もちろん別の顧客様用に仕立られた服なのでお売りする訳にいかないが。
ブランドをご紹介がてらお見せした。
⎡ほぉ〜、今どき良い服ですねぇ⎦
嫌な予感がした。
⎡これ戴きます⎦
⎡いや、これはご注文品でして販売させていただけないんですよ⎦
⎡あっ、そうなの⎦
⎡じゃあ、来期分のを注文させて⎦
⎡何があるの?⎦
⎡そりゃぁ、ジャケットとかシャツとかトラウザーとか自慢出来る数じゃないですけど一応揃えてますけど⎦
ANANAM にありがちな予測不能な話の展開になってきた。
⎡ふ〜ん、そうなの⎦
⎡じゃぁ、全部お願いしようかな⎦
⎡いや、とりあえず主だったものをすぐ取寄せますからまずはご覧になってから⎦
⎡そうしてもらえる悪いね⎦
ってそれしかねぇじゃん。
⎡あ〜、久しぶりに服の話いっぱいできて今日は楽しかったなぁ⎦
⎡もうこういうの諦めてたんだけど⎦
帰りがけに、
⎡でも長居しちゃったね、申訳ないから何か包んで下さい⎦
⎡はぁ〜い⎦
碌でもない気分だったがすっかり治った。
少なくなったけどこういう道楽的な洒落者が今だにおられる。
そして、だいたいが ANSNAM の服から縁が繋がる。
中野靖の服には、かつて服創りが正当であった時代の醍醐味が残っている。
日本人デザイナーとしては極めて稀な才能だろう。
歳はずいぶんと離れてはいるが。
俺は、この稼業の最後を ANSNAM 中野靖のアシスタントで終えて良いとさえ思っている。
だから、もうちょっとしっかり性根据えて頑張れよ。
このブログ印刷して便所の壁にでも貼っときやがれ。
そんでもって毎朝糞しながら反省しろ。
馬鹿たれがぁ。

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